研究課題/領域番号 |
19K11643
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
伊達 紫 宮崎大学, 理事・副学長 (70381100)
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研究分担者 |
秋枝 さやか 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 准教授 (20549076)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 軟らかい食物 / インスリン抵抗性 / アジア人型2型糖尿病 |
研究実績の概要 |
過食、偏食、早食いなどの食習慣の積み重ねが、動脈硬化、高血圧、糖尿病といった生活習慣病の要因になることは古くからよく知られていた。中でも、糖尿病患者は全世界で4億人に上り、その20%近くが日本を含む西太平洋地域と南アジア地域で占められていることも疫学的調査から明らかになっている。欧米での糖尿病患者の平均BMIは30で顕著な肥満を呈しているのに比べ、アジア系糖尿病患者の平均BMIは23と正常で、必ずしも肥満を伴っていないことも明らかにされていた。本研究では、私たちが開発した肥満を伴わない2型糖尿病モデルラットを用いて、アジア型2型糖尿病の発症要因とその分子メカニズムを明らかにする。私たちは先行研究で、普通食を水で軟らかくした軟食でラットを飼育すると、肥満を呈すことのない糖尿病となることを示してきた。軟食で14週間飼育したラットは固形食ラットと比べ、摂取カロリーや体温、酸素摂取量および行動量などのエネルギー消費について有意な差はなく体重差も認めないが、耐糖能障害及びインスリン抵抗性を示した。血中インスリン値は軟食摂取4週後から出現し、インスリン抵抗性の程度は、軟食投与期間に依存して悪化した。27週まで軟食を摂取したラットでは、摂取カロリーが固形食を上回るものの体重差は認めず、エネルギー消費量はむしろ固形食ラットより増大していた。また、同軟食摂取ラットでは、脂肪細胞の肥大化、脂肪組織におけるMAPKシグナルを介した慢性炎症の増長が認められ、インスリン抵抗性の要因の一つと考えられた。これらの結果から、軟食ラットでは軟食摂取の早期からインスリン抵抗性が惹起されており、このインスリン抵抗性がいかに早く現れるかが、肥満(体重増加)を呈さない糖尿病、いわゆるアジア人型2型糖尿病の特徴の一つである可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肥満を伴わないアジア人型2型糖尿病の特徴について、軟食ラットをモデルとして解析を行った。今年度の研究結果から、軟らかい食物を摂取するという食習慣のかなり初期に、インスリン抵抗性が現れることが明らかになった。この結果は、食習慣により肥満が引き起こされ、代謝臓器における慢性炎症が増長することでインスリン抵抗性が惹起されるという従来のシナリオとは異なる糖尿病発症機序があることを示唆するものであり、肥満を伴わないアジア人型2型糖尿病の発症要因を考える上で、重要な知見である。また、軟食を27週間与えたラットでは、固形食給餌のラットに比べ摂取カロリーは多いものの、体重に差がないという結果を得た。この結果は、カロリーオーバーをエネルギー消費の増大などで補填しようとする軟食ラットにおける恒常性維持機構の一端を示すものであるとともに、脂肪組織の慢性炎症所見にも裏付けられるように、軟食ラットを「かくれ肥満」モデルととらえることもできる。以上の成果から、本研究は、おおむね順調に進展していると考えられ、次年度には、軟らかい食物摂取が習慣化することでインスリン抵抗性が惹起されるメカニズムの解明のため、腸内環境の変化にも着目しながら研究を展開したい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果から、軟らかい食物を摂取することが、肥満を示さない糖尿病の発症に関与している可能性が提示され、また、かくれ肥満と言われる病態を現していることも示唆された。また、糖尿病の病態の中でも、インスリン抵抗性を比較的早い段階で獲得していることも明らかになった。これらの成果を踏まえ、インスリン抵抗性を起点とした糖尿病の病態解明を進めていく。インスリン抵抗性の進展がもたらす代謝関連臓器での病態生理、さらには腸内環境の変化にも焦点を当てて研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は 異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進め ていく。
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