本研究は、食品因子でありながら医薬品のポテンシャルを有するビタミンDに着目し、骨格筋におけるビタミンDの新規作用機序を解明することを目的としている。カルシウムおよび骨代謝作用がよく知られているビタミンDの新たな生理作用として骨格筋機能維持作用が報告されているが、その分子メカニズムは未だ不明な点が多い。ビタミンDの作用機序としては、体内で生成された活性型ビタミンDがビタミンD受容体(VDR)を介して標的遺伝子の発現を調節するgnomic作用が知られているが、近年、VDR非依存的な作用や、リガンドに依存しないVDRの直接作用などの新規作用メカニズムが報告されている。そこで本研究は、異なるビタミンDシグナルを欠損した3種の遺伝子改変ラット(①変異型VDR(R270L)導入、②CYP27B1-KO、③VDR-KO)の骨格筋における表現型を比較することで、骨格筋機能維持に関わるビタミンDシグナルの同定を試みた。 CT装置を用いて下肢骨格筋量を測定し、また下肢骨格筋の組織学的解析を実施したところ、筋線維径や化学的損傷からの回復速度は系統間で異なった。特にCYP27B1-KOラットにおいて骨格筋量の低下や化学的筋損傷は重篤であった。また握力測定試験においてもCYP27B1-KOラットにおいて握力の低下傾向が認められた。 3系統の遺伝子改変ラット間におけるビタミンDシグナルの相違点として、CYP27B1-KOラットは唯一VDR非依存的な活性型ビタミンDシグナルを欠損している。これらの結果より、従来のビタミンDシグナルである活性型ビタミンDのVDR依存的作用だけでなく、近年報告が相次いでいる新規ビタミンDシグナルも骨格筋の機能維持に関与している可能性が示された。
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