近年、厚生労働省より、豪雪地 および寒冷地域においてうつ病罹患率との相関性が認められることが報告されており、天候は情動へ影響することが示唆されている。晴れた日は気分が晴れやかであり、曇りや雨の日は気分が塞がるというように天候はヒトの精神的健康に大きく影響する因子の一つである。実際に、うつ病の治療法として人工太陽光を用いた光線治療が行われている。本研究では、光による精神的健康増進法の確立を目指し、皮膚-中枢神経間相互作用を明らかにすることを目的としている。令和元年度から令和3年度までに、動物実験を行い、鬱様モデル動物の作成、マイクロダイアリシス法とLC-MS分析法による脳内神経物質の解析法を確立し、マウス背部へのUVA照射によりマウス側坐核においてL-dopaが増加することを見出し、光刺激による皮膚-中枢神経相互作用の一部を明らかにし、また、令和3年度においては、ざ瘡患者における精神的ストレスと皮膚内神経伝達物質の相関性について解析を行い、精神的ストレスを有している患者の毛包内容物において、ノルアドレナリンの代謝物であるノルメタネフリンが有意に増加しており、精神的ストレス時に皮膚内神経伝達物質の変動が起こることを明らかにした。令和4、5年度においては、ストレス下において末梢で増加するノルアドレナリンの皮膚構成細胞である表皮細胞および脂腺細胞に対する作用について検討し、ノルアドレナリンが表皮細胞の分化を促進すること、脂腺細胞の細胞内脂肪滴の形成を促進することを見出した。さらに、その作用はα1受容体を介す可能性があることを見出した。以上の研究成果により、皮膚光刺激による中枢神経作用、および、精神的ストレスによる皮膚組織の病態メカニズムの一端が明らかとなり、皮膚-中枢神経間相互作用の理解がより深まった。
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