研究課題/領域番号 |
19K11659
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
七里 元督 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (20434780)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 脂質酸化酵素 / ストレス / アラキドン酸 / インフルエンザ |
研究実績の概要 |
本研究計画では申請者がこれまで動物実験で得ている知見である「ストレス負荷によって脂質酸化酵素12-lipoxygenase(12-LOX)が活性化し血液中でアラキドン酸酸化物12-hydroxyeicosatetraenoic acid(12-HETE)が増加する」という現象を培養細胞で再現し、ストレスをコントロールするメカニズムを解明することを最終的な目的として掲げている。このため、本研究計画では①12-HETE生成のトリガーとなる12-LOX活性化メカニズムの解明を目指す。特に、12-LOXの細胞内局在変化の分子機構の解明を試みる。その上で、②トコトリエノール等の化合物の12-LOX活性抑制の作用機構を明らかにすることを研究計画で立案している。 2019年度は12-LOXの活性化メカニズムに関する研究を進めるとともに、12-LOX同様にアラキドン酸酸化活性を持ち過去の知見も豊富な脂質酸化酵素である5-lipoxygenase(5-LOX)に関連した研究を進めた。ダイゼイン(大豆イソフラボン)が5-LOXの活性化を介してインフルエンザウイルスの増殖抑制活性を発揮することを国際誌に発表した。 2020年度は上述のダイゼインの5-LOX活性化メカニズムに関連する因子(細胞内カルシウム変化、ATP濃度変化、5-LOXの細胞内局在変化、5-LOXのリン酸化)に関する実験に取り組んだ。5-LOXの研究を実施することで、本研究計画の本題である12-LOXの活性化メカニズム解明の糸口を得ることができた。 また、2020年度は当該研究計画に関連する研究の特許登録の成果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
12LOXと同様にアラキドン酸から5-HETEを産生する5-LOXを活性化させる化合物に関する研究を行った。ダイゼイン(大豆イソフラボン)はMDCK細胞に感染したインフルエンザウイルスの増殖を抑制することを武庫川女子大学生活環境学研究科の伊勢川らは見出していた。イソフラボンは抗酸化物質であるため感染細胞中の脂質酸化物を測定したところダイゼインの添加によって5-HETEが特異的に増加することを見出した。さらに5-HETEにウイルス増殖抑制活性が確認した。5-HETEを増加させるメカニズムに5-LOXが関与する可能性が考えられたため5-LOXをsiRNAによってノックダウンしたところダイゼインによるウイルス増殖抑制活性が減弱した。以上の結果は、ダイゼインのインフルエンザ増殖阻害メカニズムに5-LOXが関与していることを示唆しており、国際誌で発表した(2019年度の本科研費の成果)。2020年度はこのダイゼインによる5-LOXの活性化機序解明のため細胞内カルシウム変動解析、ATP濃度測定、5-LOXの細胞内局在変化、5-LOXのリン酸化の解析を実施した。本研究計画の主題である12-LOXはその活性化メカニズムは明らかとなっていない。一方、5-LOXは喘息発症に関与することから活性化機構に関して多くの知見がある。12-LOXの活性化メカニズムを解析する上で、5-LOXの実験を進めることは相乗的な効果がある。 また、ストレスによって活性化される12-LOXを阻害することでストレスによる行動異常を緩和することを可能にする化合物に関する特許の登録を行うことができた。この特許は本基盤研究(C)と科研費若手研究(A)(2010-2012 22680051)、挑戦的萌芽研究(2016-2017 16K15197)の成果である。 以上のことから本研究計画は順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は2020年度から引き続きダイゼインによる5-LOX活性化メカニズムの解明に関して以下の研究を進める。 1)ダイゼインによってリン酸化される5-LOXのアミノ酸の同定とリン酸化酵素の解明 12-LOXと異なり5-LOXは酵素活性昂進に関与するリン酸化部位が複数同定されている。各部位のリン酸化を誘導する酵素も判明していることから、リン酸化酵素阻害剤を前投与し、その後ダイゼインを添加することで5-HETEの産生が抑制されれば、リン酸化部位の同定が可能である。また、同定されたリン酸化部位に対して特異的に反応する特異抗体(抗リン酸化5-LOX抗体)を用いたウエスタンブロットも行う。これらによりダイゼインによって5-LOXが活性化するシグナル伝達経路を明らかにする。さらに5-LOXのリン酸化は細胞内局在変化にも関連するため蛍光顕微鏡観察にて5-LOXの細胞内局在変化を観察する。 2)12-LOX活性化メカニズムの解析 上述の5-LOXの研究を進めることで得た知見を12-LOXに外挿することで12-LOXの活性化メカニズムを明らかにし、本研究計画の最終目標である12-LOXの活性化に起因するストレス症状緩和方法を提案する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は当該助成金からの実験補助員の人件費の使用を抑えていた。2021年度は研究加速のため実験補助員による実験を増やし成果の発信を加速する予定である。
|