サルコペニア (加齢に伴う筋萎縮と筋力低下) の未発症期または発症初期には、運動神経と骨格筋のつなぎ目である神経筋シナプス (NMJ) の構造に異常が認められていることから、NMJの構造破綻が筋萎縮および筋力低下へとつながるprimary eventと見なされている。それ故、NMJの安定性を増強してその構造を維持または復元することは、筋萎縮・筋力低下の予防や治療に繋がる可能性が高いと考えられる。NMJの筋側に特異的に発現するMuSK (muscle-specific kinase) は、筋と運動神経の間に存在する双方向性のシグナルを制御してNMJの構造維持を担っている分子であるが、そのシグナルの制御機構には不明な部分が多い。本研究では、サルコペニアの予防・治療法の開発基盤として、MuSKを介したNMJの維持システムの機序を解明することを目的とする。 令和2年度は、培養筋細胞でのアセチルコリン受容体 (AChR) の凝集化とMuSKの活性化を指標として、NMJの機能を活性化する可能性を有する生薬および漢方薬の探索を行った。120種類の生薬エキスと42種類の漢方方剤エキスを検討した結果、ケイガイ、サンショウ、シュクシャ、チョウジの生薬エキスに有意なAChR凝集効果が認められた。さらに、それらのMuSKのリン酸化に対する効果を検討した結果、シュクシャとチョウジの生薬エキスは MuSK の活性化を介してAChR凝集を誘導している可能性が考えられた。
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