研究課題
心不全は心機能の低下により全身に必要量の血液を供給できない状態である。心不全心筋細胞ではエネルギー産生経路が脂質代謝から糖代謝に移行する。糖代謝は脂質代謝と比較しエネルギー産生量が少ないため、不全心ではエネルギー産生量が低下しさらに心機能低下を招いている。そのためエネルギー産生量を増加させ、心筋細胞に必要量を供給することが心機能を改善する可能性がある。高脂質食は脂質代謝を再活性化させ、エネルギー産生量を増加させると報告があるが、一方で脂質の質が心血管イベントに影響を与えることが疫学調査で報告されている。本研究では植物性脂質と動物性脂質の違いに注目し高脂質食による心臓への影響を分子レベルで解明し、高脂質食が心臓エネルギー機構の改善を介し、心不全の発症、進展を抑制しうるかを検討した。2種類の高脂質低炭水化物食(高動物性脂質低炭水化物食と高植物性脂質低炭水化物食)を作成した。各高脂質食を与え、圧負荷心肥大心不全マウスモデルを作成した。圧負荷による心壁厚の増加が高動物性脂質食で著増し、高植物性脂質食で軽減した。機序解明のため、両高脂質食における脂質組成の差異をリピドミクス解析し、高動物性脂質食で膜リン脂質成分が増加すること、高植物性脂質食で中性脂肪が増加すること、また高植物性脂質食ではステアリン酸含量が多く、その食餌を摂取したマウスでは血中および心臓中のステアリン酸濃度が高値であった。高脂質食間で心臓のPPARalpha活性化に違いがあること、PPARalphaが心保護作用を有することを明らかにした。さらに培養心筋細胞にステアリン酸投与によりPPARalphaの下流遺伝子の発現が亢進することを確認した。以上の結果により、脂質の質により心臓への影響が異なり、ステアリン酸含量の多い脂質はPPARalphaの活性化を介して心保護的に作用することが示唆された。
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Circulation
巻: 144 ページ: 1452~1455
10.1161/CIRCULATIONAHA.121.056219