研究実績の概要 |
糖尿病,高血圧症,脂質異常症の予防と治療のための最適な運動強度とされ,運動を行う際にその値を正確に知っておくことは,非常に効果的であるAT(無酸素性代謝閾値)は,運動の強さを増していくとき,筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなり, 血液中の乳酸が急激に増加し始める強度の値であるが,正確に測定する為には高価で大掛かりな装置を必要とする。フォトセンサーを使用して指尖における血液の容積変動を捉えるDPG(光学式指尖容積脈波)は,センサーを皮膚に当てるだけという非侵襲的で簡易な測定法として広く使われている。この研究の目的は,DPGで得られる血流量変動の時系列情報を利用してATを非侵襲的で簡易に検出する手法の開発とそのメカニズムの解明を目指している。2019年度は,3,4月に成人男子30名に対し実施した運動負荷試験のデータ解析を行い,DPG時系列信号解析法として,DPGをWavelet変換し取得した局所的時間範囲での振動数と振幅を使い波の強度(単位時間あたりに流れる波のエネルギー)を抽出し,平滑化のために移動平均を取ったグラフからグラフ上の第1プラトー(平坦な領域)としてATを検出する手法を考案した。しかしこれはまだ,第一段階の結果であり,今後,更なる検証が必要であったが,2020,2021年度はCOVID19禍の為, 大規模な追加の運動負荷試験を実施できなかった。そこで,2020年度は,それまでの結果をまとめて日本運動生理学会にて理論,測定装置,実験結果に分け3題の発表を行った。そして,2021年度は,測定装置の性能向上を行った。具体的には,ADコンバータの性能4倍,サンプリングレート5倍,更に内蔵可変抵抗のPCによる制御を可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでに取得したデータを解析し,2020年度日本運動生理学会にて関連する3題の学会発表を行った。本来の計画では,2020年度に被験者を募集して複数回の運動負荷試験を実施し基礎データを収集することになっていた。しかし,2年以上にわたりCOVID19禍の為,運動負荷試験のような負荷が大きくなると吐き出す呼気の量が多くなるような実験を,被験者を募集して実施することが憚られる状況であり,新たな基礎データの収集が大幅に遅れてしまった。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020,2021年度は,COVID19禍の為,計画していた多人数に対する運動負荷試験が実施不可能であったことと,関連学会が全てオンラインになり旅費の使用が無かった為という特殊な事情による。運動負荷試験実施の為の費用は残して置かざるを得なくなったためである。2022年度は5月以降,運動負荷試験が実施できるようになれば,前年度までに計画して未実施であった試験を早急に実施する。また,移動制限が緩和されれば,学会参加や共同研究機関への出張などで旅費の使用額は増えることになるであろう。
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