脂肪酸は、細胞膜構成成分や生体のエネルギー源として働いている。近年、細胞膜上に脂肪酸の受容体(FFAR1ー4)や輸送体(CD36など)が存在すること、脂肪酸により特異的な細胞応答が生じることなどが報告され、脂肪酸がシグナル分子として細胞の機能を調節していることが明らかになってきた。われわれは、オリーブ油に豊富なオレイン酸(OA)がHNOA卵巣がん細胞の生存促進や細胞増殖作用を示すことを見出し、その作用機序の解明を試みてきた。OAの作用を引き起こす受容機構としてCD36の関与が示されたが、その後の検討によりその可能性は低いことが示唆された。そこで核内受容体のPPARの関与を調べたところ、PPARα受容体がOAの作用を介していることがわかった。さらに、OAの作用には脂質代謝ではなく糖代謝の促進が関わっていることが示唆された。この糖代謝の促進は、PPARαから転写因子のBRD4、L-MYCを介したグルコース輸送体の転写活性化によるものであることが明らかとなった。 一方、HNOA細胞以外でもオレイン酸による生存促進/細胞増殖促進が見られるかを調べたところ、RMG-1卵巣がん細胞でも同様の作用が見られた。意外にも、HNOA細胞とは異なりCDK1/2の関与、チロシンキナーゼ、PPARαの関与が見られなかった。また、OAは糖代謝よりもグルタミン代謝を亢進している可能性が示された。細胞種により、OA応答の細胞内メカニズムに違いがあることが示された。
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