研究課題/領域番号 |
19K11681
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
岩崎 綾乃 摂南大学, 薬学部, 講師 (20319792)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 食物繊維 / 生活習慣病治療薬 / Caco-2細胞膜輸送 / 遊離薬物量 |
研究実績の概要 |
食品多糖類の食物繊維は生活習慣病の発症やそのリスク因子の減少に役立つとされ、いわゆる健康食品や保健機能食品にも利用されている。医薬品を服用する人がこれらの食品を摂取した場合、「薬と食物繊維の相互作用」について問題となることが考えられる。本研究では、生活習慣病の治療薬と食物繊維の相互作用を検討する。 2021年度(令和3年度)は、食物繊維と薬の混合による、Ⅰ.遊離薬物量の変化 Ⅱ.薬物のCaco-2細胞膜輸送への影響、を検討した。昨年度までの結果から、生活習慣病治療薬のうち糖尿病治療薬に焦点を絞り研究を進めた。食物繊維は健康食品等に使用されている食品多糖類を用い、健康食品等で摂取される1回量から胃内濃度に換算した濃度で実験を行った。その結果、食物繊維と糖尿病治療薬を混合すると溶液の条件により、遊離薬物量が減少することが明らかとなった。遊離薬物量の減少は体内での薬の吸収量が減少する要因の一つとなる。遊離薬物量の実験から、糖尿病治療薬としてメトホルミン、食物繊維としてアルギン酸ナトリウムの組み合わせに着目し、Caco-2細胞を用いて薬物輸送を検討した。その結果、健康食品などで使用されるアルギン酸ナトリウムの濃度で、apical側からbasolateral側へのメトホルミンの輸送量が減少することが明らかとなった。また、実験に用いたアルギン酸ナトリウムの濃度範囲では、濃度依存的な輸送量の減少は認められなかったことから、アルギン酸ナトリウムが一定量以上存在すると輸送量は減少する可能性が示された。なお、メトホルミンの細胞内取り込みには、アルギン酸ナトリウムは影響しないことも明らかとなった。これらのことから、糖尿病治療薬を服用中に食物繊維を含む健康食品等を摂取する際には、相互作用に注意する必要があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は4月~9月にかけてCOVID-19感染拡大による緊急事態宣言発出等に伴い、細胞培養を止める等の必要が生じ、細胞を用いた薬物輸送試験を最適な条件下で効率よく行うことができなかった。加えて、年度初めには、研究室(実験施設)の移動があったことから、移動後の機器の調整、システムの構築、移動後の環境における実験の再現性の確認を行ったことから、研究の進展に遅れが生じた。しかし、移動後の環境においても再現性が得られ、実験結果の裏付けが確実にできたことから、遅れてはいるが、引き続き研究を進めることが出来ている。また、これまで得られたデータについて、論文を作成している。
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今後の研究の推進方策 |
糖尿病治療薬のメトホルミンに着目し、検討する食物繊維の種類を変えて、細胞実験を行うことを考えている。また、食品多糖類のアルギン酸ナトリウムを含む医薬品もあることから、アルギン酸ナトリウム含有医薬品との併用によるメトホルミン輸送量の変化も確認する予定である。加えて生活習慣病治療薬である血圧降下薬、コレステロール低下薬と食物繊維の相互作用について、これまでのin vitroでの結果を確認し、食物繊維による薬効発現への影響をより深く検討する必要性を見出すことができた場合には、ラットに食物繊維と薬物を経口投与し、薬物の血中濃度を測定し、相互作用をin vivoにおける薬物動態の観点から考察する予定である。血中薬物濃度測定のため、予試験として血漿からの薬物の抽出および測定法の検討も細胞実験と並行して行っていく。 また、これまでのデータに基づいて学会での発表を予定しており、要旨や発表原稿の作成を行う。さらに論文を2022年度に投稿予定であり、必要であれば追試験を行い、食物繊維と薬との相互作用に関する新たな一つのエビデンスを提示したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は年度初めに研究室(実験施設)の移動があったことから、研究の進展に遅れが生じた。加えて4月末に緊急事態宣言が発出され、大学業務である講義が遠隔授業になったことに伴う準備、実習科目の日程変更や対応等で、研究に携わる時間が極端に不足してしまった。研究実施場所の変更、COVID-19感染拡大等の要因から研究にかかる物品購入が出来ず、物品購入予定額がそのまま繰り越しとなってしまった。 使用計画として、次年度においても培養製品や器具購入が引き続き必要であり、さらにこれまでの成果を学会・論文で発表する予定としており、発表にかかる参加費、英文チェックや投稿に係るその他の費用に使用する予定である。
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