食品多糖類の食物繊維(DF)は生活習慣病の発症やそのリスク因子の減少に役立つとされ、いわゆる健康食品や保健機能食品にも利用されている。医薬品を服用する人がこれらの食品を摂取した場合「薬とDFの相互作用」について問題となることが考えられる。本研究では、生活習慣病の治療薬とDFの相互作用を検討した。 2022年度(令和4年度)は糖尿病治療薬に着目し、DFによる遊離薬物量への影響および小腸上皮細胞の特徴を有するCaco-2細胞を用いた薬物の細胞膜輸送に対する影響について検討した。その結果、糖尿病治療薬のブホルミンやメトホルミンをDFのアルギン酸ナトリウム(AL)と水中で混合すると遊離薬物の割合が大きく減少することが明らかとなった。しかし、セルロース、キトサン、ペクチン、グルコマンナンとの混合では、ALで認められたような遊離薬物の大きな減少はなかった。また、混合時、水ではなく胃内pH(pH1.2)や腸内pH(pH6.8)を想定した日本薬局方崩壊試験液を用いた場合には、ブホルミンおよびメトホルミンの遊離薬物の割合にDFの影響はなかった。糖尿病治療薬のグリメピリドでは、pH6.8の条件下、AL、ペクチン、グルコマンナンで遊離薬物の割合が減少した。遊離薬物量の減少は、体内での薬の吸収量が減少する要因の一つとなることから、薬物の種類によっては、DFによる相互作用が生じる可能性が考えられた。 次にメトホルミンのCaco-2細胞膜輸送に対するDFの影響を調べたところ、ALやキトサンの添加によりapical側からbasolateral側へのメトホルミンの輸送量が変化することが明らかとなった。DFは薬の小腸輸送に影響を及ぼす可能性があることが示唆されたことから、治療薬を服用中にDFを含む健康食品等を摂取する際には、相互作用に注意する必要があることが考えられる。
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