研究課題/領域番号 |
19K11685
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
梅澤 啓太郎 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (30505764)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
酸化ストレスによるミトコンドリア機能異常は、運動機能低下や加齢性疾患、生活習慣病など多くの疾病と深く関連しており、ミトコンドリア内での抗酸化機序解明が健康長寿研究に占める重要性は高い。その中で近年、CARS2タンパク質の関わる強力な抗酸化機序(新しい硫黄代謝経路)が発見されたが、それがミトコンドリア機能制御にどう関連しているかは明らかにされていない。その一因として、対象代謝経路の関連物質の検出法が確立されていないことが挙げられる。そこで申請者は、機能性分子化学の発想に基づくケミカルツール(分析手法)の開発という独自のアプローチによる課題解決を目標とし、新しい視点からのバイオマーカー探索や創薬研究への貢献を目指したCARS2関連代謝経路の解明に挑む。 昨年度の研究成果に基づき、本年度はポリスルフィド構造(ポリスルフィド構造)を標識可能な分子プローブの開発に焦点を当て、ポリスルフィド反応性の精密制御および、タンパク質中のポリスルフィド残基への標識が可能なプローブ開発を行った。様々な誘導体を合成し、精製アルブミンないし多硫化ナトリウムにてポリスルフィド化したアルブミンを標準タンパク質として用いて標識効率の評価を行った結果、ポリスルフィド残基に対して効率的に標識が可能な分子プローブを発見した。さらに、このプローブにビオチン構造を導入した新規プローブを合成し、ポリスルフィド残基にビオチンを誘導できる分子プローブを開発した。このプローブを用いてアルブミンを標識し、トリプシン消化およびアビジンビーズによるポリスルフィド化ペプチドの濃縮回収後、ビーズから溶出したペプチドを質量分析にて計測し、ポリスルフィド化したペプチド断片を同定することができた。 以上の結果から、タンパク質中のポリスルフィド構造を質量分析にて解析する手法の提案に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定のうち、一部は途上段階であるが、中心的研究である多硫化修飾を標識可能な分子プローブ開発に関しては、本年度までに当初の目的を達成し、その有用性を実証する結果を得た。そして本結果をもとに、翌年度の実験の一部である生体サンプルへの応用のための基礎実験をすでに開始している。ゆえに、本年度の目標であったケミカルツールを利用した網羅的解析手法の確立に対して、次年度の研究進展につながる重要な結果を得られたことから、概ね順調に進展していると総合的に判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の実験結果より得られた知見をもとに、生体サンプルのような夾雑系におけるポリスルフィドタンパク質の網羅的検出法の確立を行う。具体的には、サンプルからのタンパク質抽出から、開発した分子プローブによる標識、酵素消化、アビジンビーズによる精製分離、質量分析に至るまでの複雑な工程(約8工程)に対して、一つずつ手法の最適化を行い、上記目的を実現するための確実な分析技術基盤を構築する。 続いて、本技術をミトコンドリアタンパク質の網羅的解析に応用し、特定の条件下により惹起されたミトコンドリア代謝変化に伴うポリスルフィドタンパク質の増減を評価し、ケミカルツールによるミトコンドリアの新しい代謝機構の探索法の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初参加を予定していた国内、国際学会が全て延期あるいはオンライン開催となり、それらにかかる旅費が発生しなかったため。その他、当初合成開発に必要と考えていた試薬の購入が、効率的合成法の開発や代替試薬の使用により不要となったため。これらは次年度の消耗品及び旅費に繰り越して使用。
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