肥満には糖質と脂質の両方が存在することが必要で、糖質だけでは脂肪肝は発症するものの、肥満にはならないことは私たちのこれまでの研究で確認してきた。さらに、GADD34 KOマウスはインスリンシグナルの亢進とともに糖質代謝及び脂質代謝が亢進し、そのことでWTマウスよりも脂肪肝の発症が促進していることが明らかとなった。一方で、糖質のみでは肥満にならずに脂肪肝を発症するが、GADD34 KOマウスでは炎症系が亢進していることから、NASHへの進行も促進されることも明らかとなっている。そして、高脂肪食(HFD)摂取下ではGADD34 KOマウスではコリン摂取によって肝臓のインスリンシグナルと解糖系が強く亢進し、脂質のde novo合成を抑制するとともに、コリンによって脂質が肝臓から排出されることでWTよりも脂肪肝は抑制されるが、一方で、皮下脂肪が増加することが確認された。 本年度は脂肪肝からNASHやインスリン抵抗性へ進行するメカニズムの解析を行った。NASHへの移行は炎症系の亢進が関与すると考えられる。肝炎では、脂肪酸によるTNFαの亢進しインスリン抵抗性を引き起こすことが知られている。GADD34KOマウスにHFDを摂取させると、炎症系のシグナル伝達系の中でもJNKとSTAT3が亢進していることが明らかとなった。そこで、GADD34KOマウスにHFDを摂取させてJNKとSTAT3の抑制剤を投与したところ、HFD摂取によって亢進する炎症系や脂質合成系がHFD 摂取のWTマウスのレベルになることが確認された。今後はこれらのメカニズムの検討が必要である。 以上のことから、GADD34はJNKやSTAT3の活性化に関与することが示唆されたが、直接的なのか、あるいはシグナル伝達系の別のところに関与することで、関わっているのかについては今後の検討課題である。
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