腎臓や眼などに血管障害を招く糖尿病合併症は、治療しないまま症状が進行すると、患者は失明や人工透析を余儀なくされる。それゆえ合併症予見は、効果的な治療、人々の生活の質の向上、医療費削減につながる。本研究は、糖尿病合併症の主要因である血管障害に関連する複数のマーカー分子(マルチマーカー)に着目し、マルチマーカーを臨床現場で同時に分析可能な方法を開発し、糖尿病合併症の予見に活用することを目指す。令和4年度は以下を実施した。 [1] 糖尿病合併症の早期マーカーであるプロレニンへの結合性を確認した自作モノクローナル抗体(抗原部位:プロレニンのプロセグメント部位)を用いて、抗原となるプロレニンへの前処理が結合性に与える影響を調べ、学会で報告した。さらに、同抗体を磁性ビーズに結合させたプロレニン捕集ツールを検討した結果、捕集したプロレニンを少量のバッファーに懸濁することにより、抗原であるプロレニン濃度を格段に増加できることを確認した。 [2] 令和2年度、プロレニン標準物質の生産法として無細胞発現系が有望であるとの実験的根拠を得た。この生産方法と共通点をもつ大腸菌発現系を用いて、組換えプロレニンを発現した結果、酵素活性を発揮するプロレニンが確認できた。 [今後の展開] 本研究課題において、マルチマーカーの代表として、糖尿病合併症の早期マーカーであるプロレニンと血管障害に関連するマーカーであるカルボキシメチルリジンに対し、金ナノ粒子標識抗体を用いた電気化学的バイオセンサーの構築を行ってきた。両マーカーに対し濃度依存的な検量線を得ることができた。現時点のプロレニン検出感度では血中プロレニン濃度(100 pg/mL)を測ることは難しいが、センサーチップ上の抗原検出部位の細密化や抗原(プロレニン)の特異的捕集・濃縮を組み合わせことによって、検出感度の向上を図る。
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