研究課題/領域番号 |
19K11691
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
岡本 賢治 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (80283969)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DPP-4阻害ペプチド / 食用きのこ / Flammulina velutipes / Grifola frondosa / 発酵乳 |
研究実績の概要 |
わが国の糖尿病患者数は急速に増加しており、高血糖の状態を放置すると網膜症・腎症・神経障害など重篤な合併症を引き起こすほか、特に高齢糖尿病患者は認知症に陥りやすく、少子高齢化社会において血糖値コントロールはより重要となる。本研究では、食用きのこのエノキタケFlammulina velutipes発酵乳において発見した2型糖尿病治療薬のターゲットとされる酵素DPP-4(Dipepeptidyl peptidase-4)阻害活性に着目し、そのDPP-4阻害活性ペプチドの単離と同定、同ペプチド発酵生産技術の開発、発酵乳投与実験における血糖値やインスリン分泌におよぼす効果を調査することで、高血糖対象の新たな機能性食素材を応用展開するための基盤技術確立を目指す。 Flammulina velutipesが牛乳中で良好に生育する条件を調べたところ、静置培養よりも振盪培養が適しており、DPP-4阻害活性は経日的に増加する傾向を示した。本条件で得られた発酵乳中に存在するDPP-4阻害ペプチドの探索を行った結果、Xaa-Pro配列をもつジペプチドが顕著に蓄積していた。LC-MS分析によってIle-Pro、Val-Pro、Met-Pro、Tyr-Pro、Leu-Pro、Phe-Pro、Ala-Pro、Asp-Proを同定した。そこで、純度を揃える目的でこれらジペプチドを化学合成し、各DPP-4阻害活性を測定したところ、Ile-Pro、Val-Proが最も強く、次いでMet-Pro>Tyr-Proの順となった。一方、強力なアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性ペプチドのIle-Pro-ProやVal-Pro-ProにはDPP-4阻害活性がほぼ認められなかった。また、マイタケGrifola frondosaの発酵乳においてもエノキタケと同等のDPP-4阻害活性があることを新たに見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DPP-4阻害ペプチドの単離と同定を目的として、エノキタケFammulina velutipes発酵乳中の成分について詳細に調べたところ、Xaa-Pro配列をもつジペプチドが顕著に蓄積していた。なお、通常きのこの菌糸を生育させる際に使用する麦芽エキス、酵母エキス、グルコースから成る合成培地でエノキタケを生育させても培養液中にペプチドの生産は全く認められなかったことから、この現象はエノキタケ菌糸体が生産しているのではなく、牛乳中のタンパク質カゼイン由来のものであることを改めて確認した。ちなみに、合成培地の培養液にはDPP-4阻害活性が検出されなかった。そこで、エノキタケ発酵乳中のペプチド分画物をLC-MSによって調べた結果、Ile-Pro、Val-Pro、Met-Pro、Tyr-Pro、Leu-Pro、Phe-Pro、Ala-Pro、Asp-Proを同定した。化学合成したこれらジペプチドについてDPP-4阻害活性を測定したところ、Ile-Pro、Val-Proが顕著で、Met-Pro、Tyr-Proもそれに次ぐ有意な値を示した。すなわち、エノキタケ発酵乳に認められるDPP-4阻害活性は主としてジペプチドXaa-Proの相加効果によることが示唆された。また、発酵乳中には分岐鎖アミノ酸BCAA(Val、Leu、Ile)や芳香族アミノ酸(Phe、Trp)など必須アミノ酸の遊離が比較的顕著であった。一方、牛乳のみで生育しかつDPP-4阻害活性を示す新たなきのこのスクリーニングを進める中で、エノキタケ以外に、マイタケGrifola frondosa発酵乳においても有意なDPP-4阻害活性が存在することを明らかにした。マイタケの場合も菌糸体そのものがペプチドを生産するのではなく、牛乳中での生育過程でカゼインを分解してDPP-4阻害ペプチドを特異的に遊離するという同様の性質を示した。
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今後の研究の推進方策 |
Flammulina velutipesによる牛乳中でのDPP-4阻害活性ペプチドを生産するための最適培養条件について引き続き検討を進めるとともに、得られた条件を基に大量生産を目的としたジャーファーメンターによるペプチド大量生産技術の確立を図る。 また、Flammulina velutipesならびにGrifola frondosaが牛乳中で生育して生産するDPP-4阻害ペプチドは、カゼイン以外のタンパク質からも遊離させることが可能であるかについて検討する。 一方で、血糖値上昇の緩和など生体内での糖尿病症状の改善が期待される具体的な効果を明らかにする目的で、発酵乳中に存在が認められたDPP-4阻害ペプチドもしくは発酵乳を動物細胞や実験動物へ投与することによる影響を調べていく。
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