本研究では、運動誘発性貧血(スポーツ貧血)に対して有用で具体的な栄養科学的アプローチ法について検証することを目的とし、昨年度および一昨年度は運動誘発性溶血モデル動物における低摂食量状態下での鉄代謝変動について検証した。本年度は、競技者を対象に高強度運動時の食事因子と鉄代謝変動の関係を検証した。 対象は競技系ダンス部所属の女子高校生23名とし、①トレーニング期と試験期間中の休息期、②フェリチン値が減少した群(10名)と増加した群(13名)で身体組成、エネルギー・栄養素および食品摂取状況、血液検査データを比較した。 トレーニング期では休息期に比べ、ビタミンCと果実類の摂取が高く、ビタミンD、カルシウム、乳類が低値であり、このうち乳類は有意であった(p=0.027)。また、トレーニング期の赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値、血清鉄、血清ヘプシジンが休息期よりも低値を示し、特に赤血球数は有意であった(p=0.016)。また、フェリチン減少群のビタミンC摂取量および果実類摂取量は増加群よりも増加する傾向にあった。トレーニングによる栄養素摂取変化量と鉄代謝因子の変化量との関係について、フェリチンとビタミンCとの間に有意な負の相関(R=-0.453,p=0.030)が認められた。またビタミンCがフェリチンと最も関連が強いことが示された(標準化係数β=-0.748,p<0.010)。さらにフェリチンを制御因子とした時、血清ヘプシジンとビタミンCの間に有意な正相関(R=0.488,p=0.020)が示された。 以上より、高校生競技者はトレーニング期に果実類の摂取が高く、それに伴い摂取量が増大したビタミンCが鉄代謝に影響を与える可能性が示唆された。
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