研究課題/領域番号 |
19K11703
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
若林 あや子 日本医科大学, 医学部, 講師 (30328851)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルミニウム塩 / 腸管上皮細胞 / 損傷関連分子パターン / 食物アレルギー / 細胞死 / IL-33 / HMGB1 / 卵白アルブミン |
研究実績の概要 |
マウスへ硫酸カリウムアルミニウムまたは硫酸アンモニウムアルミニウムのようなアルミニウム塩を卵白アルブミン(OVA)と共に経口投与したところ、OVA特異的な血中IgGと糞中IgA抗体産生、CD4+とCD8+ T細胞増殖反応、T細胞からのIL-4とIFN-γ産生の亢進がみられた。 CD11c陽性の樹状細胞とマクロファージを欠失させたCD11c-DTRマウスにアルミニウム塩を経口投与したところT細胞増殖反応はみられなかった。次にアルミニウム塩投与マウスの小腸粘膜固有層のCD11chiCD64-樹状細胞ではCD80とCD86の発現の両方が、CD11cloCD64+マクロファージではCD80の発現が増強していたが脾臓の樹状細胞の活性化はみられなかった。従って、アルミニウム塩投与によるOVA特異的な免疫反応の誘導には、腸管の樹状細胞やマクロファージが関与することが示唆された。 またアルミニウム塩投与マウスの小腸上皮細胞では、生細胞数の有意な減少と細胞死の増加がみられた。さらにこれら小腸上皮の生・死細胞で、核内タンパク質であるIL-33とHMGB1が細胞質へ移行していた。こうした結果より、アルミニウム塩摂取は、小腸上皮の細胞死を引き起こし、死細胞からIL-33やHMGB1など細胞損傷関連分子パターンの放出を誘導する可能性がある。細胞外に放出されたIL-33やHMGB1は腸管粘膜固有層の樹状細胞やマクロファージを活性化し、食物抗原特異的なT細胞の活性化・増殖や抗体産生を引き起こし、食物アレルギーの発症や増悪に関与する可能性がある。 以上今年度実験結果より、食物抗原とアルミニウム塩の経口摂取による食物アレルギーの誘導には、腸管上皮死細胞から放出されるIL-33やHMGB1のような細胞損傷関連分子パターンによる樹状細胞やマクロファージの活性化が関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度当初の研究実施計画に沿って研究を行った結果、硫酸カリウムアルミニウムまたは硫酸アンモニウムアルミニウムのようなアルミニウム塩と共に卵白アルブミン(OVA)抗原をマウスに経口投与すると、OVA特異的な抗体産生やCD4+ T細胞活性化とIL-4産生亢進を含む食物アレルギーが誘導されることが明らかになった。 また、アルミニウム塩の経口摂取によって小腸上皮細胞の細胞死が増加した。そしてこれら損傷した上皮細胞においては核タンパクであるIL-33やHMGB1といった損傷関連分子パターンが細胞質に多く移行しており、これらの細胞外放出が促されていることが示唆された。 これらアルミニウム塩の摂取は、小腸粘膜固有層の樹状細胞およびマクロファージを活性化し、損傷した上皮細胞から放出されたIL-33やHMGB1はこれら上皮下の樹状細胞やマクロファージを活性化し、食物アレルギーの発症や進行に関与する可能性がある。 このように研究は当初の計画に沿っておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果から、アルミニウム塩経口摂取による食物アレルギー反応誘導は、腸管上皮細胞の細胞死を起点として始まることが明らかになった。この上皮細胞死は、炎症性細胞死のメカニズムによって起こっている可能性がある。 炎症性細胞死の誘導は、NOD様レセプター(NLR)と呼ばれる細胞内センサーによる危険物質の感知が関与する。NLRは細胞内でアルミニウム塩、細菌毒素、アスベスト、尿酸結晶など環境由来や内因性の危険な物質を認識し、インフラマソームと呼ばれる細胞質内タンパク分子複合体を形成し、炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン1β(IL-1β)とIL-18の分泌、およびHMGB1やIL-33といったDAMPsの放出を伴う炎症性細胞死を促進し、炎症と免疫反応を誘導する。 インフラマソーム形成と炎症性細胞死のメカニズムの多くはマクロファージを用いて研究されているが、腸上皮細胞におけるそれらのメカニズムはまだよく分かっていない事が多い。そこで今後は、マウス個体および腸管オルガノイドを用いて、アルミニウム塩による腸上皮細胞インフラマソームの形成と炎症性細胞死による食物アレルギー誘導のメカニズムを探究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)今年度研究計画当初は、Tリンパ球細胞増殖測定についてアイソトープラベル試薬を購入、使用して行う予定であった。しかし、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)ラベルしたT細胞の増殖をフローサイトメトリーで測定する方法に変更した。そのため、一部の試薬と実験器具消耗品の購入に変更が生じた。そうした中で、若干の次年度使用額が生じた。 (使用計画)今年度の研究によってアルミニウム塩による腸上皮細胞の細胞死が明らかになり、次年度の研究の方針と計画を明確に立てることが可能となった。次年度の研究費使用は予定に沿って円滑に進むと考えている。必要な器具や試薬を研究計画に沿って購入して適切に実験を進め、貴重な研究費を社会に還元すべく研究する所存である。
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