研究課題/領域番号 |
19K11706
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研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
小林 謙一 ノートルダム清心女子大学, 人間生活学部, 教授 (80434009)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キノリン酸 / 慢性腎臓病 / 腎線維化 / トリプトファン / ポリフェノール / オレウロペイン / ヒドロキシチロソール |
研究実績の概要 |
今年度は、まずキノリン酸蓄積による腎障害の分子機序を明らかにする目的で、キノリン酸受容機構に及ぼす影響についてQPRTノックアウトマウスを用いた解析を行った。候補となるキノリン酸受容体として、①キノリン酸がアゴニストであることが知られてきたNMDA受容体、②他のトリプトファン由来尿毒素の受容体として知られているAhR(芳香族炭化水素受容体)、③近年キノリン酸と相互作用することが報告されたRAGE(最終糖化産物受容体)に焦点を当てることにした。そのうち腎臓NMDA受容体については、14週齢の本マウス腎組織で遺伝子発現の上昇が認められた。一方AhRについては、その標的遺伝子発現に及ぼす影響を検討した結果、影響は認められなかった。以上の結果より、キノリン酸が腎組織に蓄積すると腎NMDA受容体に影響を及ぼすことが示唆された。今後は、RAGEへの影響について解析する予定である。 次に、キノリン酸蓄積が腎線維化に及ぼす影響もついて、培養細胞を用いた解析を実施した。その結果、ラット間質由来細胞であるNRK49F細胞にキノリン酸を添加しても、コラーゲンや平滑筋アクチン(α-SMA)の遺伝子発現に影響を及ぼさなかった。しかし、腎線維化誘導因子である形質転換増殖因子であるTgfβの遺伝子発現量については、上昇傾向が認められた。したがって、キノリン酸蓄積による腎間質線維化は、キノリン酸による「直接的」な影響ではなく、Tgfβを介した「間接的」な影響である可能性が示唆された。 加えて、NRK49F細胞を用いて、オリーブ葉ポリフェノール添加が腎線維化関連因子に及ぼす影響について検討した。その結果、オリーブ葉ポリフェノールの一種であるヒドロキシチロソールではα-SMAおよびTgfβ遺伝子発現の濃度依存的な低下が認められた。本結果より、オリーブ葉ポリフェノールに腎線維化抑制機能がある可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
QPRTノックアウトマウスを用いた解析については、比較的順調である。しかし、本マウスは産仔数が少なく、実験に供するサンプル数の確保が難しい状態にある。その問題を打開するために、本マウスの安定的供給体制の構築も並行して進めている。 培養細胞レベルの実験計画については、「キノリン酸蓄積による腎線維化モデルの構築」については、若干の遅れが生じている。これは、キノリン酸蓄積がNRK49F細胞に及ぼす影響を検討した結果、キノリン酸を添加しても腎線維化を誘導することができなかったからである。しかし、この結果より、キノリン酸蓄積による腎間質細胞の線維化が、「直接的」作用によるものではなく、Tgfβを介した「間接的」作用である可能性を示すことができたことは、大きな研究の進展であるといってよい。今後は、これらの結果を踏まえて、腎糸球体由来培養細胞株、尿細管由来培養細胞株などを用いた解析を行うことで、進捗の遅れが取り戻すことができると考える。 加えて、培養細胞実験系を用いた腎線維化抑制効果を有する成分の探索については、当初の計画から考えると若干の遅れが生じている。それは、キノリン酸蓄積型培養細胞系ができていないという理由がある。しかし、キノリン酸蓄積型ではなく、無処理のNRK49F細胞を用いて、腎線維化抑制因子に影響を及ぼす食品因子の検討を行なうこととした。その結果、複数種類の有望な成分(オリーブ葉ポリフェノールなど)を明らかにすることができつつある。今後は、無処理のNRK49F細胞の実験と共に、キノリン酸蓄積型培養細胞モデルを用いた食品成分の探索ができるように勧めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1年目の結果を踏まえて、キノリン酸蓄積による腎線維化に腎NMDA受容体ならびにRAGEがどのように関与しているかを明らかにするために、QPRTノックアウトマウスを用いた解析を継続する予定である。また、本マウスの腎組織において、Tgfβならびにそのシグナル伝達系であるSmadに及ぼす影響についての検討も行っていく予定である。加えて、QPRTノックアウトマウスの腎組織の超構造解析を行う目的で、透過型電子顕微鏡観察についても実施していく予定である。 キノリン酸蓄積型培養細胞モデルの構築に関しては、尿細管由来細胞株を用いることが適切である可能性が出てきたので、ヒト尿細管由来細胞株であるHK-2細胞を用いて、キノリン酸蓄積型腎線維化モデルの構築を進めていきたいと考えている。もし、可能ならば、糸球体由来培養細胞モデルを用いたキノリン酸蓄積型腎障害モデル実験系の構築も行っていきたいと考えている。 最後に、培養細胞を用いた腎線維化抑制効果を有する食品成分の探索については、候補食品成分の絞り込みを行う予定である。絞り込めた候補食品成分については、その作用機序を明らかにするとともに、作用を発揮する食品成分の化学構造についても解明できればと考えている。 その上で、最終年度で予定しているQPRTノックアウトマウスを用いた食品評価実験を行うための候補成分の決定に繋げるとともに、実験に使用するQPRTノックアウトマウスの安定的確保を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度については、予定の出張がなくなったことと、その他(雑費)の支出が必要以上に抑えられたことによる。 次年度に関しては、物品費が大きなウェイトを占める予定である。具体的には、動物実験関連消耗品(餌、床敷、ケージ、給水瓶など)、培養細胞実験関連消耗品(CO2ボンベ、液体窒素、培養ディッシュ、プラスチック製品、血清など)、培養細胞株、分子生物学実験関連消耗品(リアルタイムPCR関連試薬類、プラスチック製試験管ならびにピペットなど)、生化学実験消耗品(各種抗体、ウェスタンブロッティング関連消耗品など)、組織学的実験消耗品(染色バット、染色液、抗体など)を購入予定である。 出張費に関しては、国内学会で発表などを行うことを想定している。その他の雑費については、一部解析の受託解析費用および論文の投稿費用などを念頭にいれている。
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