研究課題
本研究では疲労および加齢による脳の構造的・機能的変化の解明を目的として、健康な成人を対象とした磁気共鳴画像法(magnetic resonance image, MRI)による脳画像計測、認知機能計測、質問紙調査を用いた研究を行った。2019年度は18歳から79歳の健康な成人の脳画像、認知機能、質問票データの統合解析を行った。認知機能と質問票による行動指標の統合解析から認知機能計測の課題成績と年齢との強い相関が認められた。一方で疲労の指標は鬱や不安の指標との相関が認められた。脳画像データの解析からは過去の研究で報告されているのと同様に脳全体、灰白質、白質の体積が年齢依存的に減少することを認めた。また本研究では脳全体で平均した皮質厚、ミエリンコントラスト、神経突起密度を解析し、皮質厚は年齢依存的な減少を示す一方でミエリンコントラスト、神経突起密度は年齢依存的に増大することを新たに見出した。HCP mmp atlasを用いて、局所における変化を解析した結果、前頭前野や後部頭頂皮質、上側頭皮質において、年齢依存的な皮質厚の減少、ミエリンコントラストおよび神経突起密度の増大が顕著であることを見出した。さらに多変量解析により、左側の55b (L_55b)と呼ばれる領域が他の領域と比べて皮質厚、ミエリンコントラスト、神経突起密度、神経突起の方向散乱の特徴が年齢によって最も説明される領域であることが明らかとなった。さらに、安静時機能的MRIを用いたL-55bをシード領域とする機能的結合解析の結果、ブロードマンエリア(BA) 44、BA45、perisylvian language area, 上側頭皮質との間に強い相関を持ち、その相関は年齢依存的に弱まることも示された。これらの結果は、ライフスパンにおける脳の構造と機能の変化をマルチモーダルに観察することで得られた新たな知見である。
3: やや遅れている
当初予定していたHCPでの高齢者データの公開が遅れている状況に伴い、高齢者のデータ解析を十分に進めることができなかった。
HCPでの高齢者データの公開が遅れている状況であるため、当初予定していた慢性疲労者に加えて高齢者を対象にしたMRI計測研究を推進する。
当初予定していたデータ解析ソフトが所属機関の一括購入により安価に利用することができたため、次年度使用額が生じた。次年度の被験者謝金の一部に充当する予定である。
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