本研究では疲労および加齢、また、その相乗効果による脳の構造的・機能的変化の解明 を目的として、急性の精神疲労負荷を介入する前後に安静時脳機能計測を行い、安静時脳機能ネットワークの変容について調べた。また18歳から79歳までの健常者327名から取得した脳MRI画像および疲労を含めた精神状態に関する質問票の多変量データを用いて統合的な解析を行った。急性精神的疲労負荷による安静時脳機能ネットワークのうち、デフォルトモードネットワークと注意ネットワークの間の結合性に有意な変化を認めた。疲労負荷前の非疲労状態においては2つのネットワークが有意な負の相関を示したが、疲労負荷後の疲労状態においては同様の相関関係を示さなくなった。このことから疲労状態において安静時脳機能ネットワークの不安定化することが示唆された。また、健常者327名の横断的な脳画像データの解析により、大脳皮質の微細構造における年齢依存的な変化を明らかにした。大脳皮質が年齢とともに菲薄化するのに対し、T1強調画像とT2強調画像の比によりもたらされるミエリンコントラストは年齢依存的に高まり、ミエリンの増大が示唆された。また神経突起密度についてもミエリンコントラストと同様に年齢依存的な増大を示した。さらに安静脳機能結合の解析結果からは年齢とともに機能的結合が弱まることが認められた。特にブローカ野やウェルニッケ野を含む言語ネットワークにおいてその変化が顕著であることを認めた。これらの結果などから疲労および加齢に伴う脳の構造的・機能的変化の一端が明らかにされた。
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