我々はヒトに適用されるサルコペニアに対して効果的な予防・治療法の開発を目指して研究を進めている。骨格筋の優れた再生能力を利用し、ヒト由来の筋幹細胞を移植再生医療への応用を目標に、幹細胞性の指標であるPax7の発現レベルとよく相関する細胞表面マーカーを用いて、より高品質なヒト筋幹細胞を濃縮し、in vitroおよび in vivoでの骨格筋再生に対する効果を検証した。 細胞表面マーカーの発現レベルに応じ、高発現のヒト骨格筋前駆細胞を培養し、分化誘導した結果、巨大な筋管細胞が形成され、低発現の細胞より分化能が高いことが確認された。また、継代培養を重ねると、細胞分化能の低下とともに、細胞表面マーカーの発現も不可逆的に低下し、継代培養による幹細胞の品質低下を反映する。さらに、本マーカーの遺伝子を過剰発現させることによって、ヒト骨格筋前駆細胞の自己複製能が著しく促進され、分化能も有意に増加された。 細胞表面マーカーの発現レベルが異なるヒト骨格筋前駆細胞を免疫不全マウスの前脛骨筋に移植したところ、どちらもヒト細胞の生着が確認された。一方、高発現細胞を移植したマウス前脛骨筋においてはヒト骨格筋線維が多数形成されたに対して、低発現細胞を移植したマウスの前脛骨筋にヒト骨格筋線維はほぼ確認できなかった。 以上の解析の結果から、ヒト筋幹細胞の品質を反映する本マーカーを指標に高品質な幹細胞を濃縮することで、高効率な細胞移植治療の実現につながると期待できる。
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