研究課題
日本における高血圧性疾患の患者数は1,000万人以上にも達する。中でも心肥大は高血圧性疾患の大部分を占めており、心不全、脳血管障害、腎障害などを引き起こす原因にもなり得る。これらの治療に対して降圧薬を使用しても改善がみられず、心肥大が増悪する例も多く存在する。この問題に対し、心筋を標的とした心肥大の抑制による高血圧の増悪抑制を目指すことを考えた。長年にわたって高血圧や心肥大に関する研究がなされており、数多くの知見が得られているが、未だ詳細なメカニズムの解明には至っていない。我々はこれまでに血圧以外にも心肥大の病態進行に関与する因子が存在することを明らかしている。心筋における心肥大関連分子を探索するため、異なる心重量/体重比を示す正常血圧ラット(WKY)、高血圧ラット(SHR)、及び脳卒中発症ラット(SHRSP)の左室壁に対して網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、心肥大依存的に変動し、且つ心肥大との関連性が未解明の8つの遺伝子を新規の心肥大関連タンパク質として選出した。これらのうち、現在1つのタンパク質に焦点をおいて解析を進めている。本タンパク質は、既にシグナル経路が報告されているが、肥大心におけるシグナルの活性化は正常心のものと変わらなかった。この結果より本タンパク質にはこれまでに報告されていない他の機能が存在する可能性が示唆された。そこで本タンパク質における新規の機能を解明するために、相互作用するタンパク質の解析を行った結果、新規の相互作用や細胞内局在などが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた心筋細胞への遺伝子導入による解析よりも肥大心を用いた機能解析が有効であると考えられたため、臓器を用いた解析を主として行っている。新規の相互作用や局在などが明らかとなり、「おおむね順調に進展している」とした。
今後は本タンパク質が局在する細胞小器官を回収して正常血圧ラット由来の心筋細胞における細胞小器官と機能比較をすることにより、肥大心における直接的な機能解析を行っていく。より詳細な機能解析が必要となれば、心筋細胞株への遺伝子導入による解析も行っていく。本タンパク質のin vivoレベルでの心肥大に与える影響を解析するため、脳卒中発症ラットに対して本タンパク質のノックアウトラットの作製を試みている。
他の研究者と共有できる試薬が出てきたため、予定より少額となった。次年度は本研究でのみ使用する試薬等があるため、その購入費に充てる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
J Clin Invest .
巻: 130(1) ページ: 374-388
10.1172/JCI126598.