研究課題
多くの疾患は生物学的性差により多大な影響を受ける。糖尿病合併症もその一つであり、糖尿病を起因とした血管機能障害も性差が存在することが知られている。心血管疾患リスクは女性の方が男性に比べ低いことが知られているが、糖尿病を併発している場合にそれは逆転し、女性の方が男性よりも高くなることが報告されている。本研究では、ストレプトゾトシン誘発1型糖尿病マウス(STZ)および自然発症2型糖尿病モデルマウス(KKAy)を用いて、糖尿病病態下での血管機能の性差を解明し、糖尿病治療および性差医療への基盤を確立することを目的としている。STZから摘出した胸部大動脈におけるアセチルコリンによる弛緩反応は、対照群に比べ雌雄ともに減弱が見られた。クロニジンおよびインスリンによる弛緩反応は対照群では雄に比べ雌で増強していたが、STZ群においてはその反応は逆転した。一方、KKAyマウスでのアセチルコリンによる弛緩反応は対照群に比べ、雄では変化はなかったが、雌では弛緩の増強が見られた。これらのことから雌では、インスリン分泌能のある場合は代償的に血管内皮機能が増強するが、分泌能の消失した糖尿病になると雄より悪化する可能性が考えられた。また、雌雄の胸部大動脈における糖尿病による遺伝子発現変化をRT-qPCR法を用いて検討した。前年度に脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸(LPA)の生成酵素や分解酵素の遺伝子発現変化を腎臓において見出している。LPAは細胞膜受容体を介して多様な生理機能を有し、平滑筋収縮や血管形成など血管機能にも深くかかわることが報告されている。今年度は胸部大動脈においてLPA受容体の一つであるLPA3受容体の遺伝子発現が糖尿病病態の雄に比べ雌で増加する結果を得た。雌雄および糖尿病病態によるLPAに関連した遺伝子発現の違いが、血管反応に性差が生じる原因であることが考えられた。
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