研究課題/領域番号 |
19K11732
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
門田 佳人 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (60461365)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 老化 / メタロチオネイン / 筋肉 / C2C12 |
研究実績の概要 |
メタロチオネイン(metallothionein, MT)は、亜鉛などの必須微量元素との結合能、有害金属毒性軽減作用および抗酸化能を有する多機能低分子タンパク質である。MT遺伝子の欠損マウスの寿命は、野生型マウスと比較して有意に短縮し、特に高齢期のオスのマウスは壮齢期までは認められない運動機能の低下や背骨の湾曲などが認められたことから、MT遺伝子欠損による老化促進の機構を明らかにする必要がある。本年度は、MT遺伝子の欠損で起こる間葉系組織、特に筋肉の老化機構を解明するために、MT遺伝子欠損と筋分化および筋肉の老化の関係について、マウス培養細胞を基盤とした細胞生物学的手法を用いて研究を行った。 マウス筋芽細胞株C2C12のMT遺伝子をCRISPR-Cas9システムにより遺伝子破壊し、MT遺伝子欠損が筋芽細胞の筋分化および老化に影響を与えるのかについて検討を行った。その結果、筋分化誘導時の筋管形成の指標である筋融合指数(筋管数に対する細胞核の数)がMT遺伝子欠損により有意に増加した。したがって、MT遺伝子欠損は筋肉の発達については正にはたらくと考えらえる。一方、筋管形成過程におけるインターロイキン-6 mRNAの発現量は、MT遺伝子欠損により有意な増加が認められた。インターロイキン-6は、筋肉の発達に関与するマイオカインの一種である一方で、老化促進に関与するため炎症性サイトカインでもあるため、MT遺伝子欠損は筋老化に関与する可能性が示唆された。また、筋管形成過程において、速筋繊維に多いミオシン重鎖遺伝子の発現量は、MTKO遺伝子欠損により低下したのに対し、遅筋繊維型のミオシン重鎖の発現量は上昇した。一般に老化により速筋繊維が委縮しやすく、遅筋繊維はあまり変化しない。したがって、老齢のMT欠損マウスの運動機能低下に速筋の形成能の低下が関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、MT遺伝子の欠損で起こる間葉系組織の老化のうち、筋分化および筋肉の老化の関係について、マウス培養細胞を基盤とした細胞生物学的手法を用いて研究を行った。培養細胞実験の結果から、MT遺伝子欠損は、筋管形成能を亢進したことから、予想に反して筋肉を発達させる可能性が示唆された。一方、MT遺伝子欠損により老化促進に関与する炎症性サイトカインの発現が亢進することが認められた。またMT遺伝子欠損は、筋管中の速筋繊維型ミオシン重鎖の遺伝子と遅筋繊維型ミオシン重鎖の遺伝子の発現量に影響を与えたため、老齢のMT欠損マウスの運動機能低下に、筋関連遺伝子の発現パターンや筋肉のタイプの変容が関係する可能性を見出すことができた。 MT遺伝子欠損マウスの寿命解析研究において壮年期からマウスの死亡が認められ、老齢期には20%程度の寿命の短縮が認められる。このMT遺伝子欠損による寿命短縮機構の解明のため、壮年期(50週齢=約1年齢)および老齢期(100週齢=約2年齢)のオスのマウスを対象とし、野生型マウスとMT遺伝子欠損マウス間の血中総代謝物(メタボローム)を比較解析し、老化と密接な関係があるといわれる代謝機能の変化から老化メカニズムを予測し、さらに新規老化マーカー探索や新規老化防止法の創生を目指して研究を行っている。本年度は、50週齢マウスの血漿採血を行い、現在はそれらのメタボローム解析を行っている段階である。また100週齢マウスの飼育も進行しており、次年度の採血および解析を目指している。またMTがどのように骨や筋肉などの老化に関与するのかについて観察する目的で、MT遺伝子欠損と野生型のオスマウスの大腿部を摘出し、組織切片から骨量や筋量などを算出する予定である。本年度は、血漿採血とともに50週齢マウスの大腿部を採取したので、100週齢のものとともに再来年度の解析を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、MT遺伝子欠損で起こる間葉系組織(骨・軟骨・筋肉)の老化機構の解明および血中代謝産物の測定から老化と密接な関係がある代謝機能の変化を調査し、独自の老化予防および治療戦略の創造を目的として、ヒトへの応用の前段階としてMT遺伝子欠損マウスおよび培養細胞を基盤とした生物学的手法を用いて今後以下の点を明らかにする予定である。 ①間葉系細胞の骨分化・形成に対するメタロチオネインの役割(培養細胞実験):CRISPR-Cas9システムを用い、既存のモデル細胞株(骨芽細胞、MC3T3-E1; 破骨細胞、RAW264)のMT遺伝子欠損細胞を作製し、それらの細胞の骨分化能に対する影響および分化マーカーや老化関連遺伝子の発現を検討する。またマウスの緻密骨から単離した間葉系幹細胞から定法にしたがって骨芽細胞分化誘導し、特異的染色または分化マーカー遺伝子およびMTの時間変動的発現量をRT-PCRおよび特異的抗体を用いたイムノブロット法により比較する。 ②血中メタボロミクスによる老化要因の探索(老齢マウスでの検討):老齢期(100週齢)のMT遺伝子欠損と野生型のオスマウスから血液を採取し、その血漿中のメタボロームを質量分析により比較し、老化とMTの遺伝子欠損がどのように代謝機能を変化させ、身体的老化に影響を与えるのかについて、パスウェイ解析などを用いてそのメカニズムを探索する。 ③MTKOマウスの骨・筋老化に対する組織化学的アプローチ:老化前の壮齢期(50週齢)と老齢期(100週齢)のMTKOと野生型のオスマウスの大腿部を組織化学的に比較し、MTの遺伝子欠損および性差によってどのようにオスの骨・軟骨・筋肉の老化が進行するのか、その部位と変遷を観察する。大腿部を摘出し、骨および筋肉の組織切片から骨量や筋量を算出し、また各種組織の細胞を特異的染色し、マウス系統間および週齢間で比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末に参加予定であった日本薬学会第140年会(於京都)(2020年3月25(水)~28日(土))は、COVID-19感染拡大の影響で中止となり、その宿泊費および交通費として計上した旅費を、研究計画調書申請時に予定していたが交付決定額で計上することができなかった筋肉関連の解析に用いる抗体試薬などの購入に充てた。次年度使用額は、その差額分で、年度末と国際的なパンデミックなどが重なり、本学の支払い期限までに新たな物品購入の申請と物品納入が困難であったことから、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、研究遂行に必要な試薬等の消耗品とその消費税分に充てる予定である。
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