研究課題/領域番号 |
19K11732
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
門田 佳人 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (60461365)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 老化 / メタロチオネイン / メタボローム / 血漿 |
研究実績の概要 |
メタロチオネイン(metallothionein, MT)の遺伝子欠損(MTKO)マウスの寿命は、野生型(WT)マウスと比較して有意に短縮し、運動機能の低下や背骨の湾曲などが認められる。本研究では、MT遺伝子欠損がどのように身体老化に影響を与えるのかを明らかにするために壮齢期および高齢期の血漿中総代謝物(メタボローム)について質量分析を基盤に網羅的に解析し、その老化機構を解明することを目的としている。本年度は、壮齢期(50週齢)のMTKOとWTのオスマウスの血漿メタボロームを解析した。 解析の結果、WTマウスと比較してMTKOマウスの血漿中で多い化合物は19種類、少ない化合物は27種類であった。MTKOマウス血漿中で低かったものとして、解糖系やクエン酸回路に関連するL-乳酸、グリセロール3-リン酸、オキソグルタル酸、クエン酸が検出された。また長鎖脂肪酸のEPA、アラキドン酸、PGE2などのエイコサノイド がMTKOマウスで低かった。またアミノ酸とその代謝物として、タウリンがMTKOマウス血漿中で低く、L-フェニルアラニン、L-リジン、N6, N6, N6-トリメチル-L-リジン(TML)などが高かった。TMLは、L-リジンから合成されるL-カルニチンの合成中間体である。したがって、MTKOマウスは、WTマウスと比較してTMLやL-リジンの代謝能が低いのかもしれない。一次胆汁酸の抱合体(グリココール酸、タウロコール酸など)がMTKOマウスで低く、ビリルビン量は顕著に高かった。また核酸塩基のキサンチンとそのヌクレオシドであるキサントシンの血漿中量は、MTKOマウス中で顕著に高かった。さらにリゾリン脂質量は、MTKOマウスで低い傾向にあった。検出された物質は、主に肝臓で合成や代謝が行われるものが多く、MTKOマウスは、WTマウスと比較すると肝機能が異なる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、以下の3つのアプローチで研究を遂行している。① MTKOマウスの骨・筋老化に対する組織化学的アプローチ② 血中メタボロミクスによる老化要因の探索③ 間葉系細胞の分化能に対するメタロチオネインの役割(インビトロ実験) アプローチ①では、MTの遺伝子欠損および性差によってどのようにオスの骨・軟骨・筋肉の老化が進行するのか、その部位と変遷を組織化学的に比較・観察することを目的とする。これに関しては、MTKOマウスの身体老化を評価する材料として、老化前の壮齢期(50週齢)と老齢期(100週齢)のMTKOと野生型のオスマウスの大腿部組織(骨と筋肉)を採取することができた。 アプローチ②では、血中総代謝物(メタボローム)を比較し、老化とMTの遺伝子欠損がどのようにメタボロームを変化させ、身体的老化に影響を与えるのか、そのメカニズムを探る。総代謝物(メタボローム)質量分析を基盤に網羅的に解析し、オスのMT欠損による老化の要因をパスウェイ解析で明らかにする。これに関しては、上述の通り、壮齢期(50週齢)MTKOマウスと野生型マウスの血漿メタボロームを比較することができ、注目すべき化合物をいくつか抽出することができた。また老齢期(100週齢)の血漿を採取することができた。 アプローチ③ではMT遺伝子を破壊した細胞を分化誘導し、MT欠損が骨芽細胞、軟骨細胞あるいは筋芽細胞の分化に影響を与えるのか、さらに分化に影響を与えた場合、どのように分化を制御するかについてを考察する。これに関しては、CRISPR-Cas9システムを用いて筋芽細胞株C2C12のMTKO細胞に関して、老化促進物質を添加することでMTKO細胞の方が老化しやすい傾向を観察することができた。また骨芽細胞株MC3T3-E1およびマクロファージ細胞株RAW264を購入し、MT遺伝子欠損細胞を作製しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、新たなアプローチを加えて4つのアプローチで研究を推進していく。 アプローチ①:MTKOマウスの骨・筋老化に対する組織化学的アプローチ:壮齢期(50週齢)と老齢期(100週齢)のMTKOマウスと野生型のマウスの大腿部組織(骨と筋肉)を採取することができたため、これらを用いて骨量や筋量を算出し、また各種組織の細胞を特異的染色し、マウス系統間および週齢間で比較解析を行う。 アプローチ②:血漿メタボローム解析による老化要因の解析と老化のバイオマーカーの探索:老齢期(100週齢)MTKOマウスと野生型マウスの血漿を採取することができたため、UPLC-TOF-MSにより血漿中メタボロームを網羅的に解析し、MTKOマウスの寿命短縮機構の解明と老化のバイオマーカーを探索する。また前年に行った50週齢マウスのメタボローム解析の結果と合わせて、パスウェイ解析などを活用してメタボロームの時間的変動を総合的に評価することでより多くの情報を得る。 アプローチ③:間葉系細胞の分化能に対するメタロチオネインの関与に関する解析(インビトロ実験):CRISPR-Cas9システムを用いて、骨芽細胞株MC3T3-E1およびマクロファージ細胞株RAW264.7のメタロチオネイン遺伝子欠損細胞を作製し、骨形成や骨吸収に対するメタロチオネインの効果について評価する。また樹立済み筋芽細胞株C2C12の筋管形成能促進機構の詳細および老化促進物質添加による細胞老化時のメタロチオネインの関与について検討する。 アプローチ④:肝臓機能におけるメタロチオネインの評価:50週齢のMTKOマウスと野生型マウスの血漿中メタボローム比較解析にて、肝臓で合成あるいは代謝・分解される物質が数多く同定された。そのため、それらの合成あるいは代謝酵素に関して遺伝子やタンパク質の発現を解析し、それらの物質の老化や寿命に与える影響を考察する。
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