研究実績の概要 |
メタロチオネイン(metallothionein, MT)の遺伝子欠損(MTKO)マウスの寿命は、野生型(WT)マウスと比較して有意に短縮し、運動機能の低下や背骨の湾曲などが認められる。本研究では、MT遺伝子欠損がどのように身体老化に影響を与えるのかを明らかにするためにマウスの血漿中総代謝物(メタボローム)について質量分析を基盤に網羅的に解析し、その老化機構を解明することを目的としている。本年度は、高齢期(100週齢)のMTKOとWT雄性マウスの血漿メタボロームを比較解析し、前年に得られた壮齢期の結果とともに寿命短縮の機構を考察した。 100週齢のマウスの解析の結果、WTマウスと比較してMTKOマウスの血漿中で多い化合物は42種類、少ない化合物は40種類であった。それらの中で壮齢期(50週齢)と共通の傾向を示した物質の1つとして、トリメチルリジン(TML)の量がMTKOマウスの血漿中で有意に高かった。TMLはカルニチンの合成中間体であるため、カルニチン合成に着目したところ、カルニチン、アシルカルニチン類およびカルニチン合成中間体γ-ブチロベタインの量が100週齢においてWTマウスと比較してMTKOマウスで有意に低かった。そこでカルニチン合成の盛んな腎臓および肝臓におけるカルニチン合成経路の遺伝子発現を解析したところ、TMLの水酸化を触媒するTMLジオキシゲナーゼの遺伝子Tmlheの発現量がWTマウスと比較してMTKOマウスにおいて顕著に低かった。またMTKOマウスの血漿中で、脂肪酸代謝不全症患者の尿中で検出される脂肪族ジカルボン酸類の濃度が高いことがわかり、MTKOマウスはカルニチン不足による脂肪酸代謝不全を引き起こしている可能性が示唆された。近年、カルニチンの抗老化作用が着目され始めており、MTKOマウスの寿命短縮の一端にカルニチン合成能不良が担っていると考えられる。
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