研究課題
肝硬変患者の栄養療法の開発を行っている。分岐鎖アミノ酸(BCAA)は肝硬変患者の栄養治療で有効な栄養素である。しかし、その投与のタイミングや量についての報告は極めて少ない。近年メタボローム解析によって、これまで評価できなかった代謝物を測定できるようになってきた。 BCAAが生体の中で本当に上手く活用されたかは、筋肉の増加が最終的なアウトカムになるが、長期間の観察が必要であるうえ多くの要因が想定される。そのため、短期間で栄養状態を評価し食事内容を早期に修正できれば精度の高い栄養療法となる。 外科侵襲時は、グルコース不足によるたんぱく質異化の亢進やたんぱく質合成障害を特徴とする代謝変動がみられ、内因性のタンパク質源やエネルギー基質が 減少する。特に、進行がん患者や消化器疾患患者では、術前から栄養障害をきたしている場合が多く、術前の中等度及び高度の栄養障害は、術後合併症の増加や予後の悪化につながる。BCAAの異化代謝を評価することで、BCAAが上手く利用されたか短期的に評価できると考えた。これまで、アシルカルニチンについては、肝・胃・大腸切除で有意な差がみられなかった。3-ヒドロキシイソ酪酸 (3-HIB) は、肝切除群が胃や大腸切除群より術後優に高値を示すことを確認していきた。アミノ酸代謝物についても検討してみると、アラニンは、胃切除及び大腸切除群においては術後3日目に減少傾向がみられたが、肝切除群においてはあまり変化がみられなかったことから、肝切除群において骨格筋でのアンモニア代謝が亢進した可能性が示唆された。肝切除では術後肝臓の機能が低下するため骨格筋の代償機能が亢進する結果を示しているのではないかと推測した。
2: おおむね順調に進展している
肝切除、胃切除、大腸切除の患者について、おおむね予定通りサンプリングを行い、種々の代謝物を測定し、その意義について解析を行っている。研究では、肝切除後のアミノ酸代謝変動が肝切除特異的な反応であるかを明らかにするため、肝・胃・大腸がん切除周術期の血中アミノ酸濃度変動を比較した。対象は、肝切除群13例、胃切除群14例、大腸切除群10例の計37例とした。手術当日(pre)、術後3日目 (POD3)、7日目 (POD7) の早朝空腹時に採血を行い、血液生化学検査を行った。また、血漿を用いてアミノ酸濃度を、血清を用いてインスリン (IRI)、アシルカルニチン、3-ヒドロキシ酪酸 (3-HB)、3-ヒドロキシイソ酪酸 (3-HIB) 濃度を測定した。分岐鎖アミノ酸 (BCAA) であるIsoleucine (Ile) とLeucine (Leu) は、POD3において大腸切除群に比し肝切除群で有意に低値を示した。その他の代謝物についても、引き続き解析を継続し、肝疾患特有の代謝変化を検討している。
インフォマティック解析により、変動した代謝物を抽出し、その代謝物を身体状況、生体の検査値との関連を検討することにより、変動した理由の検討を行っていく予定である。方法としては、肝切除、胃切除、大腸切除を比較して、有意差のあった代謝物を抽出し、その項目に影響する因子について、単回帰分析、重回帰分析を行い原因と検討する。
本年度の研究に予定していた外注検査が、サンプリング終了予定がコロナのため年度末に試験終了となった。次年度のに検討予定しているサンプルを提出する予定のため、本年度と次年度の経費を合わせて計上する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Journal of Hepatology
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10.1016/j.jhep.2022.01.005