研究課題
体内へ吸収されるコレステロールは、食事からの吸収が約20%と少なく、残りの約80%は腸肝循環によるコレステロール再吸収に依存している。さらに、食事中のコレステロール摂取量と血中コレステロール値の関連を示すエビデンスがないことから、米国心臓協会と米国心臓病学会は、コレステロール摂取制限の推奨を撤廃する声明を行った。一方で、コレステロール摂取の増加は、肝硬変や肝臓癌など肝疾患のリスクを上昇させ、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)における脂肪沈着の程度を増加させることが報告されている。また、胆管結紮や化学物質による肝障害モデル動物においても、食事中のコレステロール含有量の増加が、肝炎の増悪や肝線維化の進展を誘導し、その機序に肝臓におけるインフラマソームや星細胞の活性化が関与することが報告されている。しかし、食事由来のコレステロールが、直接肝内の脂質代謝や発癌に及ぼす機序は未だ不明である。本研究では、高コレステロール含有高トランス脂肪酸食、高トランス脂肪酸食、コントロール食でマウスを飼育し、3か月後、血清、肝臓、内臓脂肪組織、糞便を採取した。現在までの解析にて、体重、全脂肪量、肝重量がコントロール食に比較して、高脂肪食群で増加していたが、コレステロールの負荷よりさらに増加がみられた。血液生化学検査上は、コレステロールの負荷により総コレステロール値、遊離コレステロール値、ALT値の上昇がみられたが、中性脂肪値は軽度上昇に留まった。一方で、肝組織中はコレステロール負荷により、総コレステロール値、遊離コレステロール値、中性脂肪値、総胆汁酸値に増加がみられた。また、肝内のコレステロール代謝因子の検討では、コレステロール負荷によりCYP27A1の低下がみられ、胆汁酸分画に異常が出ている可能性が示唆されている。
2: おおむね順調に進展している
現在、食餌開始3か月後の胆汁酸分画と腸内細菌叢の解析中であるとともに、食餌開始後12カ月後のマウスの肝臓の解析を行うために、マウスを飼育中。12ヵ月後のマウスの解析は、今後2カ月程度後に解析を開始できる予定。
胆汁酸分画の分析と腸内細菌叢の変化を確認し、コレステロール代謝との関連を確認する。また、高脂肪食給餌後12カ月後の肝発癌の有無、癌の個数を観察し、組織で脂肪沈着量、炎症・線維化の程度を検討する。さらに、癌関連遺伝子のPCR arrayを行い、発癌に関するkey moleculeの遺伝子発現を絞りこみ、Western Blotで確認する。その後、肝癌細胞株を用いて、上記で絞り込んだ肝代謝関連key moleculeを、肝癌細胞株で過剰発現、もしくは発現抑制を行い、細胞増殖(proliferation assay)やapoptosisへの影響など、癌進展に関わる形質変化について解析する。その結果をもとにノックアウトマウスを作成し、肝臓の脂肪沈着、炎症・線維化、発癌へ及ぼす影響を確認する。次に薬剤を用いた介入実験を行う。コレステロールトランスポーターを阻害しコレステロールの吸収を抑制した後、肝臓の脂肪沈着の程度、炎症・線維化の程度、肝臓内のコレステロール量や胆汁酸量、脂肪酸代謝、コレステロール代謝の変化、肝線維化と発癌抑制の有無を比較する。また、抗生剤を用いて腸内細菌叢を変化させ、肝臓の脂肪沈着量、炎症・線維化の程度、肝臓内のコレステロール量や胆汁酸量、脂肪酸代謝、コレステロール代謝の変化を比較検討する。最後に、NAFLD患者の生検組織を用いて、動物実験と培養細胞実験で得られた肝脂肪沈着、肝炎、肝線維化、肝発癌に関するkey moleculeの発現を確認する。
高額の検査である胆汁酸分画の解析と腸内細菌叢の解析の依頼が、マウスの飼育都合で3月になったため、支払いが2020年度となってしまったため。今後2カ月程度で昨年度の研究費は使用する予定。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Atherosclerosis
巻: 299 ページ: 32-37
10.1016/j.atherosclerosis.2020.02.026
Journal of Diabetes Investigion
巻: 10 ページ: 1083-1091
10.1111/jdi.13000.