研究課題/領域番号 |
19K11746
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
栗木 清典 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (20543705)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生活習慣病 / 罹患リスク / 予測モデル / 時系列データ / 欠損値 / 多重代入法 |
研究実績の概要 |
肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病、および、メタボリックシンドロームの罹患までの時間と生活習慣要因との関連を検討する長期間の時系列データは、各種疾患の罹患予測モデルの作成に有用である。しかし、健診受診者を対象とした長期間の時系列データには欠損値が多いという問題があり、(i)欠損値の有る者『非継続受診者』を除外して各種疾患の罹患予測モデルを作成する場合、対象者が『継続受診者』となってしまう選択バイアスが生じる。(ii) 欠損値に対象集団の平均値を代入して各種疾患の罹患予測モデルを作成する場合、各種疾患の罹患予測の精度が過小もしくは過大な評価となる。 そこで、本研究は、J-MICC研究の静岡・桜ヶ丘地区の独自研究として、約6,400人のベースライン時から過去5年間、および、現在までの5年間の計10年間の健診データを個人レベルでデータを突合してデータベース化した。この大規模な長期の時系列データより、各種疾患の罹患予測モデルを作成するため、『非継続受診者』の欠損値をマルコフ連鎖 (1個前の状態によって次の状態が決まる連鎖) とモンテカルロ法 (乱数を発生させること) を組み合わせた“multiple imputation by Markov Chain Monte Carlo methods (MCMC法)”法による多重代入法により『継続受診者と非継続受診者で構成される疑似完全データ』で解析できる統計手法を修得した。なお、当初の研究計画に加え、新たな統計手法も修得した。 さらに、各種疾患の罹患予測モデルの精度を高めるため、例えば、適正血圧値の維持管理の高精度モデルを確立するため、尿試料中Na+やK+などを測定、また、肥満では、第2のヒトゲノムである腸内細菌叢の解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、本研究は、J-MICC研究の静岡・桜ヶ丘地区の独自研究として、5つの健診機関 (研究協力機関) より、約6,400人のベースライン時から過去5年間、および、現在までの5年間の計10年間の健診データを毎年提供いただいている。それらの健診データを個人レベルで突合してデータベース化した。生活習慣要因の改善や精神ストレスの低減による疾患別の一次予防法を提言するため、食事、飲酒、喫煙、運動・身体活動などの生活習慣要因や精神ストレス等は、(ベースライン調査からの変化をみるための) 5年後調査の質問票より入手した。ベースライン調査のデータは、本研究の開始前にすべて入力済みだが、この5年後調査で回答の得られない (ベースライン調査の) 参加者には、簡易版の質問票にて郵送調査を行って回収率を高めた。 適正血圧値を維持管理するモデルでは、そのモデルの精度を高めるため、ベースライン時、および、5年後調査で収集した尿試料のNa+やK+などの電解質を測定しているが、単年度ではすべてを測定できなかった。肥満予防のモデルの精度を高め、保健・栄養指導に適用できる生体バイオマーカーを開発するため、5年後調査で収集した便試料より腸内細菌叢を解析した。次世代シークエンサーによる腸内細菌叢の解析は安価でないため、限られた予算で、高精度の予測モデルを作成するため、年齢、性別などの交絡因子の影響を最小限にするマッチング法でコーホート内症例・対照研究の測定対象者 (肥満の症例群と対照群) を選出した。 この大規模な長期の時系列データより、各種疾患の罹患予測モデルを作成するため、欠損値をMCMC法で多重代入法により『継続受診者と非継続受診者で構成される疑似完全データ』で解析できる統計手法を修得した。なお、当初の研究計画に加え、最近の専門誌で報告された新たな統計手法も修得した。
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今後の研究の推進方策 |
J-MICC研究の静岡・桜ヶ丘地区における約6,400人の計10年間の健診データより、『非継続受診者』の欠損値をMCMC法による多重代入で補完して解析することで、肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病、メタボリックシンドロームの罹患リスクの予測モデルを高精度に確立する。適正血圧値の維持管理については、尿試料中Na+やK+などを測定して高精度のモデルを確立する。肥満予防、適正体重の維持管理については、腸内細菌叢を解析して高精度のモデルを確立する。なお、各種疾患の罹患予測モデルの精度は、欠損値の発生メカニズムが完全なランダムか否かによる影響を受けるため、欠損値のMCMC法による多重代入による補完の不確実さについて感度分析を行う。 各種疾患の罹患予測モデルの確立とともに、食事、飲酒、喫煙、運動・身体活動などの生活習慣要因や精神ストレス等との関連を明らかにして、生活習慣要因の改善や精神ストレスの低減による疾患別の一次予防法を提言する。 さらに、『継続受診者』と『非継続受診者』の人口学的特性、各健診項目、生活習慣要因、精神ストレスなどを比較して、継続受診、および、メタボリックシンドロームや高血圧などの一次予防や血圧維持のための食事・保健指導方法を確立する。 そして、最近のゲノム医療の進展を考慮し、ゲノム情報を考慮した検討も必要である。 各種疾患の罹患リスク予測モデルにおいて、小規模なgenome wide association study (GWAS) データによる一塩基多型を組み入れた各種疾患の罹患予測モデルの作成を試みて、将来の大規模なGWAS解析に向けた基礎資料を作成する。
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