研究課題/領域番号 |
19K11747
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
桑原 晶子 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学研究科, 准教授 (00582602)
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研究分担者 |
津川 尚子 大阪樟蔭女子大学, 健康栄養学部, 教授 (30207352)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ビタミンE / 酸化ストレス / non-HDL-コレステロール |
研究実績の概要 |
今年度は、①健常成人における血中ビタミンE濃度と酸化ストレス指標ならびに動脈硬化性疾患リスクとの関係、②施設入居高齢者における血中ビタミンE濃度と認知症の有病との関係を調査し、昨年度に引き続きビタミンE栄養状態の臨床的意義について検討した。 ①は、20歳以上65歳未満の健康な男女1179名を対象者とし、血清α-、γ-トコフェロール(α-T、γ-T)濃度、酸化ストレス指標として、d-ROMs(酸化ストレス値)、BAP(抗酸化力値)の比から算出したOSI(酸化ストレス度)を評価した。動脈硬化性疾患リスクの判定は、高血圧、脂質異常、高血糖の有無を判断し、2個以上のリスクがある者を動脈硬化性疾患リスク有りと判定した。その結果、血清α-T、γ-T濃度のそれぞれで三分位にカテゴリー化した値、性別、年齢、BMI、喫煙、飲酒、ビタミンEサプリメントの使用、血清non-HDLコレステロール濃度を共変量因子とした動脈硬化性疾患リスク有無に対するロジスティック回帰分析にて、γ-T濃度低群を基準とした場合に高群でリスク有病率が高くなる傾向がみられ (p=0.068)、血清γ-T濃度が高いほど疾患リスクを低減するのではなく適正範囲があることが考えられた。②では、68~102歳の老人福祉施設4施設の入居者110名を対象に、認知症の有無別で血清ビタミンE濃度を比較したところ、nonHDL-Chで補正した血中ビタミンE補正値では、認知症あり群でα-Tが低値傾向(p=0.059)、γ-Tが有意に低値(p=0.008)を示した。さらに、ロジスティック回帰分析にて、低血清γ-トコフェロール濃度(nonHDL-Ch補正値)が認知症の寄与因子であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」にも示した2つの研究は、当初予定していた今年度の研究課題であり、概ね予定通りの進捗状況にある。①の研究においては、ビタミンEとの同時測定系ではないものの、LC-MS/MS法による血清25(OH)D濃度の測定は完了しており、2021年度ではこれら脂溶性ビタミン群栄養パターンと生活習慣、食品摂取パターンとの関係について検討を進められる状況にある。また、コロナ禍のため新たなサンプルを採取することは困難であったが、これまでに採取していた施設入居高齢者のサンプルを用いて、近年注目されている認知症と抗酸化物質であるビタミンEとの関係について検討した。今回のプレ調査の結果、これまで血清α-T濃度を主として解析を進めていたが、血清γ-T濃度の臨床的意義についても検討を重ねる必要性が明らかとなったため、この点を踏まえて、2021年度は調査を進める。自施設でのLC-MS/MS法による血清25(OH)D濃度の測定については、当初より遅れが発生しているが、2020年度中に機器のセットアップが完了した。以上の様な状況は、ほぼ想定された研究の進展状況であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は健常成人の20歳以上65歳以下の健常成人ボランティア1,179名分の血清25(OH)D濃度及びビタミンE濃度を含めたデータセットを作成した。これにより脂溶性ビタミン群栄養パターンと生活習慣、食品摂取パターン、臨床アウトカムとの関係についての解析を進める。また、平成29年の国民健康・栄養調査のデータセットも作成できたため、こちらを用いて、脂溶性ビタミン群の摂取量の実態評価、また各脂溶性ビタミン摂取量の有病歴や筋力、血液検査指標との関係を検討する。その後、脂溶性ビタミン群摂取量のパターン化をして、有病履歴や臨床指標との関係性を多変量解析にて検討する。また、各パターンにおける食品群摂取・生活習慣の状況も調査し、質問票に用いるべき項目を明らかにする。コロナ禍で新たなフィールドを開拓することが困難であるため、ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク(NCBN)の生体由来試料ならびに問診情報を用いて、血中脂溶性ビタミン群濃度と有病歴との関係を検討する。NCBNでは特に認知症や運動器疾患を有する対象者が登録されているため、2020年度に認知症との関係が示唆された血中α-T、γ-T濃度との関係をより明確にし、血清25(OH)D濃度およびビタミンK不足指標のundercarboxylated osteocalcin (ucOC)濃度などを含めた認知症への関係を検討する。この研究を進めるために文献調査を行い、研究計画書の作成、倫理委員会への申請作業を行う。LC-MS/MSが稼働できる状況に入ったので、測定条件の設定の探索などを2021年度より開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は糖尿病患者を対象とした調査も2020年度に遂行する予定であったが、コロナ禍のため対象者を募ることが難しい状況にあった。また、「現在までの進捗状況」にも示した通り、2020年度は研究室での活動も難しく、当初予定していたLC-MS/MS法による血清25(OH)D濃度及びビタミンEの分析メソッドの組み立てを行うまでには至らなかった。このため、分析関連費用が次年度使用額となったものである。
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