研究課題
今年度は、①血中ビタミンE濃度測定時の血清検体の少量化の検討、②施設入居高齢者における血中ビタミンE濃度と上気道感染症発症との関係、③健常成人における血中ビタミンD[25-水酸化ビタミンD: 25(OH)D]濃度と動脈硬化性疾患リスクとの関係、④平成29年国民健康・栄養調査データを用いた現在の日本人の栄養素摂取状況を調査した。①では、限られた血清サンプルの有効利用を目的に、従来我々が行っていた測定法の半量となる血清100μLでの測定を行った。その結果、従前法との測定値と有意差は無く、100 μLでの測定が可能であることが考えられた。②では、施設入居高齢者のミニコホートデータを利用し、4施設104名を対象とした観察開始時の血清ビタミンE濃度と1年間での上気道感染所発症率との関係を検討した。その結果、対象者の39.4%でビタミンEは欠乏レベルにあり、血清ビタミンE濃度の三分位間で上気道感染所の発症リスクが異なる傾向がみられた。さらに、種々の因子で調整したCox回帰分析において、ビタミンE濃度最低群を基準とした際の最高群のハザード比は0.24(95%CI: 0.07-0.80)と有意に低かった。③では1177名の男女の健常成人を対象に、血清25(OH)D濃度と動脈硬化性疾患リスクとの関係を検討した結果、男性のみ、リスク有り群で血清ビタミン濃度が有意に低値を示し、種々の因子で調整したロジスティック回帰分析でも、動脈硬化性疾患リスクに対して血清25(OH)D濃度は有意な負の関係を示した。④では、カットポイント法による栄養素摂取不足の判定を行った結果、不足栄養素の数が多い者の割合は、男性より女性、高齢者よりも成人で高かった。また不足栄養数の中央値で2群に分けて背景因子を比較すると、不足栄養素の多い群では欠食者の割合が有意に高かった。
2: おおむね順調に進展している
「研究実績の概要」にも示した研究は、当初予定していた今年度の研究課題であり、概ね予定通りの進捗状況にある。測定については、コロナによる研究活動の制限、機器の調整なども必要となったため、進めることが難しい期間があったが、このような状況下にあったことを踏まえても、ほぼ想定された研究の進展状況であると考えている。また、平成29年国民健康・栄養調査のデータセットを用いた、現状の日本人の栄養素及び食品群の摂取状況の解析にも着手しており、概ね当初の計画通りに進められている。また、2020年度の研究にて、血清ビタミンE濃度と認知症の有病との間に関係が見られることが示唆されたが、限界点として対象者数が少なく、認知症に関連するデータも十分ではなかったため、新たに認知症と脂溶性ビタミン栄養状態の検討を行うための研究を計画した。この研究計画については、既に倫理委員会への申請・審査を受け、既に承認を得ている。また、データをより正確に解析するために、検体分譲元の機関と共同研究契約の締結を行い、既に研究会議も数回実施している。
2022年度は、ビタミンEの測定において、セミミクロカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー系を導入し、さらに効率性の高い測定法を確立する。自施設でのLC-MS/MS法による血清25(OH)D濃度の測定を開始する。国立長寿医療研究センターの生体由来試料ならびに問診情報を用いて、血中脂溶性ビタミ群濃度と認知症および軽度認知障害との関係を検討する。アルツハイマー型認知症患者、軽度認知障害患者、健常群を各97例の血清又は血漿検体を用いて、各種ビタミン及びその関連物質を測定する。併せて、採血時の身長、体重、一般生化学検査値、既往歴、現病歴、喫煙状況、飲酒状況、採血時及び採血時以降の認知症の有病の有無並びに認知機能評価スコアの情報を用いて認知症または軽度認知障害の有無又は認知機能スコアに対する寄与因子を解析する。平成29年の国民健康・栄養調査の栄養素の摂取パターンと高血圧症、脂質異常症、糖尿病の有病との関係を解析し、脂溶性ビタミンとの関係が見られる疾患についても検討する。脂溶性ビタミンの疾患との関係については、近年の文献レビューも行い、得られたデータの裏付け作業も平行して行う。また、2021年度に解析した②施設入居高齢者における血中ビタミンE濃度と上気道感染症発症との関係、③健常成人における血中25(OH)D濃度と動脈硬化性疾患リスクとの関係については、現在論文化を進めており、2022年度中の採択を目指すこととしている。
「現在までの進捗状況」にも示した通り、2021年度も昨年度に続き、コロナによる研究室での活動が制限されていたこともあり、当初予定していたLC-MS/MS法による血清25(OH)D濃度の測定系を確立するまでには至らなかった。このため、分析関連費用が次年度使用額となったものである。また、コロナ禍のため、新しいフィールドを開拓することが難しかったため、バイオバンクを活用することとした。その際に分譲ではなく、共同研究での検体利用としたため、共同研究者との研究計画の相談、倫理委員会への申請・承認などに時間を要した。そのため年度末での検体入手となり測定には至らなかった。2022年度は、血清25(OH)D濃度及びビタミンE濃度のLC-MS/MS法による測定を行うための測定費用が発生する。さらに、国立長寿医療研究センターで取得できた検体のビタミンD不足指標の血清副甲状腺ホルモン濃度測定費用が必要となるため、2021年度未使用となった助成金を使用する。なお、2022年度分として請求した助成金については、当初の計画通りとして使用する。
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PLoS One
巻: 17 ページ: e0264943
10.1371/journal.pone.0264943