今年度は、①認知機能と血清ビタミンE濃度との関係についての調査、②血清25(OH)D濃度と動脈硬化性疾患リスクに関する研究の論文化を行った。①では、国立長寿医療研究センターバイオバンクに登録の年齢65~85歳、バーセルインデックス80点以上の者のうち、ビタミン製剤非服用の258名を解析に用いた。Mini Mental State Examination:MMSEスコアにより対象者を認知症(DM)群、軽度認知障害(MCI)群、対照(CN)群の3群に分類し、血清α-、γ-トコフェロール(αT、γT)、濃度はHPLCで測定した。その結果、ビタミンE欠乏者(αT濃度12 μmol/L未満)は全体で2名(0.8%)とビタミンEレベルの保たれた集団であり、血清αT、γT濃度の粗値、Tchで調整した値共に3群間で有意差は見られなかった。MMSEに対する重回帰分析、DMに対するロジスティック回帰分析でも血清αT/Tch、γT/Tchのいずれも有意な寄与はなかった。ただし、MCIに対するロジスティック回帰分析にて、αT/Tch三分位の最低群と比較し、中群でオッズ比が有意に高く、本研究対象者のビタミンE栄養状態が高いことが、認知機能との有意な結果を明らかにできなかった要因であることが推察された。また、主成分分析にて、ビタミンE栄養状態が一般栄養状態とは独立することが示唆された。②では前年度得られた、血清25(OH)D濃度が動脈硬化性疾患リスクに対して有意な負の関係を示した結果に加え、共分散構造分析により血清25(OH)D濃度の動脈硬化性疾患リスクに直接的に関係することを示し、論文化したものが2023年4月に採択された。研究全体を通じて、ビタミンD栄養状態が過栄養を基盤とする動脈硬化性疾患リスクに関与すること、またビタミンE栄養状態が著しく低い場合に上気道感染症との関連を示すことを明らかにした。
|