研究課題/領域番号 |
19K11752
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
高 ひかり 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60338374)
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研究分担者 |
加賀 直子 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80338342)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高脂肪食 / 低出生体重 / 発症前診断 / 先制医療 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
近年、我々の食生活は欧米化が進み、高カロリー・高脂肪食が肥満を促す結果となっている。このような環境下、出生時すでにリスクを持つ低出生体重児の疾患(肥満やメタボリック症候群のみならず、耐糖能異常・高血圧・心疾患・精神疾患など)発症率はますます高くなる一方である。しかしながら、出生時低体重がなぜ高脂肪食負荷由来と同様の疾患発症リスクを負うのか、その分子メカニズムについてはまだほとんど明らかになっていない。そこで、この体質と環境のミスマッチにより生じる非感染性疾患(生活習慣の改善により予防可能な疾患)発症リスク因子を同定し、発症前診断に利用する事によりリスクの高い人に適切な予防や治療介入を行い、発症を未然に防ぐ「先制医療」早期治療介入に役立てる事が必須となってくる。 そこで我々は、高脂肪食負荷モデルラットを作製し実験を行った。今年度は、サンプリング前の食事が血中の脂質(中性脂肪・総コレステロールなど)やグルコース、インスリン濃度などに与える影響を排除するため、サンプリング前夜から絶食させたラット血清を用いて代謝物の分析を行った。 その結果、標準出生体重仔、低出生体重仔の両方で高脂肪食負荷により変動のあった代謝物を高脂肪食負荷によるリスクと関係のある代謝物と同定した。 また、低出生体重仔リスク因子と関係がある代謝物として、低出生体重仔においてすでに高脂肪食負荷様の変動しており、且つ高脂肪食負荷により更に変動した代謝物及び有意な変動には低出生体重と高脂肪食負荷両方の条件が必要であった代謝物を低出生体重仔非感染性疾患発症リスクとなる候補代謝物として絞りこんだ。昨年度の結果と多少異なるものであったが、相違のあった代謝物はサンプリング前の食事の影響を受けていた事がわかった。結果、リスク因子と関係がある候補代謝物の信頼度を上げる事ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
連携研究者の協力により4種のラットモデル(妊娠中自由摂餌した母からの仔で4週齢時から8週間(1)標準食を食べた群(2)高脂肪食を食べた群、妊娠中摂取カロリーを制限した母からの仔で4週齢時から8週間(3)標準食を食べた群(4)高脂肪食を食べた群)を作製した。各群のラットに前夜から絶食をかけ翌日の午前中に採血と肝臓のサンプリングを行った。今までの実験ではサンプリング直前に絶食を行っていなかったが、サンプリング前の食事が血中の脂質(中性脂肪・総コレステロールなど)やグルコース、インスリン濃度などに与える影響を鑑み、サンプリング前夜から絶食をかけた。本年度は脂溶性分画を用いて脂質の分析を行う予定であったが、サンプリング前の食事が各群の水溶性の低分子代謝物変化に影響を及ぼしていたのか検証するため、絶食をかけた各群の血清サンプル中の極性代謝物を解析した。血清をメタノール/クロロホルムで処理し、キャピラリー電気泳動/質量分析で水溶性の極性低分子代謝物(解糖系やトリカルボン酸回路、アミノ酸や核酸など)約110種を分析した。昨年度、高脂肪食負荷により標準出生体重仔、低出生体重仔の両方で変動のあった代謝物のうち、低出生体重仔リスク因子と関係がある代謝物として、低出生体重仔においてすでに高脂肪食負荷様の変動しており、高脂肪食負荷により更に変動した代謝物と、有意な変動には低出生体重仔と高脂肪食負荷両方の条件が必要であった代謝物を非感染性疾患発症リスクとなる候補代謝物として絞りこんでいたが、いくつかの代謝物がサンプリング直前の食事の影響を受けていた事が確認できた。今回の実験より、サンプリング直前の食事の影響を受けた代謝物をリスク因子候補から除く事ができ、より信頼のできる結果が得られた。脂溶性分画の実験がまだできていないので、やや遅れ気味であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
血清における高脂肪食負荷と低出生体重仔共通に変動する極性低分子代謝物(解糖系やトリカルボン酸 (TCA) 回路、アミノ酸や核酸など)はいくつか絞り込む事ができた。今後、これらの代謝物の変動がどのようなメカニズムによって起こっているのか詳細な解析を進めていく必要がある。脂質代謝やタンパク質解析に幅を広げ、ここで候補となった代謝物との関係や、表現型と合わせてリスク因子の探索および発症機序の解明を試みる。血清だけでなく、肝臓の極性低分子代謝物の変動を分析し、血清中の変動との相関性を解析する。また、胆汁酸の機能は最近まで脂質の吸収を助ける事と考えられていたが、最近はいくつかの受容体に結合しホルモンのような働きをして脂質代謝、糖質代謝、肥満等に影響を及ぼしていることが明らかにされ胆汁酸の新たな機能が注目されている。そこで、胆汁酸の詳細な解析も行って行きたい。最後に、分析したすべてのデ-タを関連付けて解析し低出生体重児における体質と環境のミスマッチにより生じる非感染性疾患(生活習慣の改善により予防可能な疾患)の発症前診断に利用できる様なリスク因子を見つけたい。そして、リスクの高い人に適切な予防や治療介入を行い、発症を未然に防ぐ「先制医療」早期治療介入に役立てる事を最終目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行した。ほとんど見込み額と執行額は同額となった。 (使用計画)1.質量分析を行うためのサンプル前処理消耗品代(フィルター、有機溶媒、標準物質等)2.質量分析にかかる消耗品代(カラム、アニオン・カチオンバッファー、シース液、キャピラリー、コネクター、ネブライザー等)3.一般的な消耗品(チップ、ガラス器具等)4.国内学会参加のための旅費、参加費を予定している。
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