研究課題/領域番号 |
19K11752
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
高 ひかり 順天堂大学, 大学院医学研究科, 助教 (60338374)
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研究分担者 |
加賀 直子 順天堂大学, 大学院医学研究科, 助教 (80338342)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高脂肪食 / 低出生体重児 / 発症前診断 / 先制医療 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
エピジェネティック(遺伝子の塩基配列変化ではなく遺伝子発現のオン/オフ)変化は環境に左右されやすく世代を超えて伝播し、発達期の影響をそのまま後の世代に及ぼす。低出生体重児は出生時すでに非感染性疾患(生活習慣の改善により予防可能な疾患)の発症リスクを持ち、その発症率は現代の富栄養環境下ではより高くなる。しかしながら、出生時低体重児がなぜ高脂肪食負荷由来と同様の疾患発症リスクを負うのか、その分子メカニズムについてはまだほとんど明らかになっていない。そこで、この出生時低体重児が持つ体質と環境のミスマッチにより生じる疾患発症リスク因子を同定し、発症前診断への利用を可能にしたい。そこで我々は、高脂肪食負荷モデルラットを作製し実験を行っている。昨年度まではラット血清を用いて実験を行っていたが、今年度は肝臓組織に内部標準の入ったメタノールを加えホモジナイズし、クロロホルムと水を加え限外ろ過フィルターで処理後、キャピラリー電気泳動/質量分析(CE/MS)で極性低分子代謝物を測定した。その結果、血清と肝臓組織では代謝物変化のパターンは異なり、血清と肝臓組織ではラットの条件に関わらず、主成分解析で血清と肝臓組織の2組に分離した。また、肝臓組織における標準体重仔標準食、標準体重仔高脂肪負荷食、低出生体重仔標準食と低出生体重仔高脂肪負荷食の主成分解析は4つのクラスターに別れた。さらに、標準体重仔標準食に対し低出生体重仔標準食のグループと標準体重仔高脂肪食負荷のグループが少し重なりながら近くに分布し、標準体重仔標準食から一番離れた所に低出生体重仔高脂肪食負荷のグループとなった。この結果から、高脂肪食負荷により低出生体重仔と類似した代謝物変動がおこっており、低出生体重仔に高脂肪食を負荷するとさらに代謝物変動に大きな影響を与えている事がわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度はコロナ禍の影響によりほとんど実験ができず遅れていたにも関わらず、今年度も業務に追われ自身の研究に費やす時間が持てなかった。今年度は肝臓組織の極性低分子代謝物の前処理とキャピラリー電気泳動/質量分析(CE/MS)を行ない、主成分解析まで行った。しかし、リスク因子となりえる代謝物の解析まで至らなかった。また、本来ならこの分析に加え脂溶性代謝物、タンパク質の分析も行う予定であったができなかったため遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は解析対象を脂質、タンパク質や遊離ペプチド等に広げ、そこで候補となった膨大な数の代謝産物からエピジェネティック変化につながる即ち遺伝子発現のオン/オフスイッチと密接な関係を持つ代謝産物を探索する。それらの代謝経路間の相互作用が、組織間コミュニケーションを如何に変化させるのか、またこれらの代謝物の変動が非感染性疾患と関連するホルモン分泌、免疫応答、インスリン作用、神経機能の調節とどのようにかかわっているのかそのメカニズムの詳細な解析を進めていく。分析したすべてのデ-タを関連付けて解析し低出生体重児における体質と環境のミスマッチにより生じる非感染性疾患の発症前診断に利用できるリスク因子の同定を目指す。そして、適切な予防や早期治療介入を行い、発症を未然に防ぐ「先制医療」に役立てる事を最終目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)業務に追われ自身の研究に費やす時間が持てなかった。今年度は肝組織の極性低分子代謝物の前処理と分析を行った。本来ならこの分析に加え脂溶性代謝物、タンパク質の分析も行う予定であったができなかった。また、コロナ禍により学会の開催がオンラインとなり旅費の出費がなかった。従って研究費を執行する事が出来なかった。 (使用計画)1.質量分析にかけるためのサンプル前処理消耗品代(フィルター、有機溶媒、消化酵素、標準物質等)2.質量分析にかかる消耗品代(カラム、コネクター、ネブライザー等)3.一般的な消耗品(チップ、ガラス器具等)4.国内学会参加のための旅費、参加費を予定している。
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