本研究は日本人の生活習慣病の罹患率の上昇を抑制するために、肥満からの炎症誘導を抑える事できる食品成分を見出す事を目的とし、ビタミンE同族体の1つであるδ-トコフェロールに着目して研究を進めてきた。平成31年度~令和2年度にかけて脂肪細胞に炎症誘導させたモデル細胞を構築し、その細胞を用いて、δ-トコフェロールを中心にビタミンE同族体の抗炎症作用について検討を行った。その結果、δ-トコフェロールにはα-トコフェロールに比べて強い抗炎症作用を持つことを明らかにした。そこで、令和3年度はin vivoで証明する事を主眼において検討を行った。しかし、コロナ禍である事から昨年度研究報告書で述べた方法では継続が不可能になる可能性もあったので、短期間でマウスの脂肪組織に炎症誘導させる方法を用いて研究を継続する事にした。マウスに高脂肪・高ショ糖食を1ヶ月摂取させ、肥満を誘発した後に、炎症誘導剤としてよく用いられているリポポリ多糖(LPS)を腹腔内に投与する事で脂肪組織に炎症誘導が起きるかどうかについて検討した結果、体重1kgあたり1mgを投与し、4時間後に解剖した所、腎周囲脂肪において炎症性サイトカインであるTNF-α、IL6ならびにIL-1βともコントロールに比べてLPS投与群で有意な上昇が見られ、この条件下でin vivoにおける炎症誘導モデルマウスを構築できる事が明らかとなった。そこで、α-トコフェロール並びにδ-トコフェロールを摂取させると、腎周囲脂肪組織中のIL-1βの遺伝子発現をδ-トコフェロールを摂取させる事で有意な差は見られなかったものの低下傾向(p=0.056)を示した。しかし、α-トコフェロールには同様の効果は見られなかった。以上の結果より、δ-トコフェロールには脂肪組織の炎症誘導を抑制する作用がある可能性が示唆された。
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