研究課題/領域番号 |
19K11757
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
野村 幸子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門, 上級研究員 (30348784)
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研究分担者 |
物部 真奈美 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門, 茶品質機能性ユニット長 (90366427)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カフェイン / テオブロミン / 社会心理学的ストレス |
研究実績の概要 |
最近の基礎研究や疫学調査の結果から、食品中のメチルキサンチン類が脳機能に対し有益な効果をもたらす可能性が示されているが、メチルキサンチン類の中でも、カフェインに次いで頻繁に摂取されているテオブロミンの作用に関するデータは、相対的に乏しい。カフェインを含む食品の原料として、茶やコーヒー、カカオ、マテ茶、ガラナなどが挙げられるが、これらの植物にはテオブロミンも含まれている場合があり、カフェインを含む食品の効果にはテオブロミンの作用が内包されている可能性がある。したがって、上述の食品原料を摂取した際の効果の正体を明らかにするためにも、テオブロミン単独の作用に関するデータを補うことが重要である。 テオブロミンはアデノシン受容体を介した即時的な精神活性が現れにくく、中枢神経系に対しては実質的に効果がないとみなされてきた。しかし、カフェインに加えてテオブロミンを豊富に含むカカオやマテ茶を用いた動物実験からは、テオブロミンが特異的な精神活性を持ち、カフェインとは異なる作用を有することが示唆されている。 本研究では、カフェインとテオブロミン、各々の精神活性についてin vivoで比較し、テオブロミンに特異的な作用を明らかにする。ヒトを対象とした試験では、中枢神経系での関連分子の変化を詳細に調べることは困難であるため、適切な社会心理学的ストレスモデル動物を用いて、テオブロミンの投与による効果をカフェインと比較する。この結果から、テオブロミン特有のストレス応答に対する作用を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会心理学的ストレスの動物モデルとして、以下のとおり「対面飼育マウス」を用いた。通常、マウスはケージ内に5-6匹のグループで飼育するが(グループ飼育)、2匹の雄性マウスを板で仕切ったケージで1匹ずつ飼育すると縄張り意識が確立される(単独飼育)。その後、仕切り板を除くとマウスは互いを侵入者とみなし、その存在にストレスを感じるようになる(対面飼育)。このようなストレスを受けた実験動物では、視床下部―下垂体―副腎軸の過剰な活性化が誘導され、副腎重量が増加するが、ストレスを軽減する物質の投与によって、副腎重量の増加が抑えられることが証明されている。我々は、テオブロミン(15 mg/kg body weight/day)を用いた予備検討で、テオブロミンの単独投与も副腎重量の増加を抑えることを確認した。しかし、ヒトが摂取する量として換算すると、予備検討に用いたテオブロミンは高容量(900 mg/60 kg)である。メチルキサンチン類は推奨摂取上限以下の容量と高容量では異なる作用を示す場合があることから、推奨摂取上限量(400 mg /60 kg)以下の範囲内で効果を確認する必要がある。 そこで令和元年度は、推奨範囲内の容量(6 mg/kg body weight/day)でのテオブロミンやカフェインの投与が、対面飼育マウスの副腎重量に及ぼす影響について検討した。その結果、カフェイン投与群では副腎重量が有意に増加していたが、テオブロミン投与群では副腎重量の増加が抑えられていた。これらの結果から、高容量の場合と同様に、推奨範囲内の容量でも、テオブロミンの投与によりストレス反応が抑えられる可能性が示された。さらに、副腎重量の測定と並行して、心理学的な変化を反映する行動試験を行ったが、テオブロミンやカフェインの投与による行動学的変化を確認することはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の結果から、推奨範囲内の容量でもテオブロミンの投与によりストレス反応が抑えられることが示唆された。しかし、不安様行動や探索行動を観察する行動試験(オープンフィールド試験および高架式十字迷路試験)では、カフェインやテオブロミンの投与による行動学的変化は認められなかった。本試験で採用した「対面飼育」は社会心理学的ストレス負荷モデルであるため、不安様行動や探索行動の観察では心理学的な変化を的確にとらえられなかった可能性がある。そこで、令和二年度からは、オープンフィールド試験、高架式十字迷路試験以外のより社会心理学的なストレス変化を反映しやすい行動試験を検討する。 加えて、社会心理学的ストレスを受けて視床下部―下垂体―副腎軸の過剰な活性化が誘導された実験動物では、血中のストレス関連ホルモン濃度が変化することが報告されている。そこで、令和二年度からは、テオブロミンやカフェインの摂取がストレス関連ホルモン(コルチコステロン、副腎皮質刺激ホルモン、デヒドロエピアンドロステロン、アドレナリン、ノルアドレナリン等)の血中濃度に及ぼす影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題の研究成果について機関内で特許化の可能性が指摘され、知的財産に関する審査が終わるまで結果を公表できなかった。審査の結果、本課題の研究成果に特許性はないと判断され結果の公表が許可されたが、令和元年度の研究成果発表のための旅費等が使用されず、次年度使用額が生じた。令和二年度も新型コロナウィルス感染拡大防止策として、学会等の開催自粛が懸念されるため、公表が許可された研究成果については論文での公表を目指し、次年度使用額を論文の投稿や掲載のための費用に充てる。また、新たに計画に加わった「社会心理学的な行動試験の検討」のための消耗品費として使用する。
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