研究実績の概要 |
本研究では肥満・糖尿病性認知症に関わる新規候補分子として、特に脳内炎症や動脈硬化の鍵となる単球・ミクログリア機能(M1/M2極性・Triggering receptor expressed on myeloid cells 2(TREM2))に焦点を当てている。既に我々は骨髄のDNAマイクロアレイにより、肥満・糖尿病マウスにおいてTREM2遺伝子の発現亢進を認めている。また、久山町一般住民コホートやNHO糖尿病コホートにて、血清TREM2が認知症発症・認知機能低下と関連し、新たな認知症予知指標となる可能性を報告しており(Ann Neurol 2019; Diabetes Metab 2019)2020年度は下記実績を得ている。 ①C57BL/6Jマウスを用いて高脂肪食誘導性肥満マウスを作製、海馬および脂肪組織における炎症およびTREM2発現を解析した。両組織において炎症マーカー、Mφ・ミクログリア活性化指標、誘導型一酸化窒素酵素の発現が増加しTREM2の発現も増加した(日本肥満学会, 2020)。 ②また、2型糖尿病モデルの代表例であるdb/dbマウスに対して同様に解析を進めた。両組織において炎症マーカーやMφ・ミクログリア活性化指標、誘導型一酸化窒素酵素の発現およびTREM2の発現も増加した(日本肥満学会, 2020)。 上記より、糖尿病・肥満に伴い、脳内ミクログリアに加え脂肪組織においてもTREM2発現が亢進し、各臓器のM1/M2極性悪化が全身慢性炎症に繋がる可能性が示唆された。 現在、申請者の作製したTREM2欠損マウスに高脂肪食を与え、肥満・糖尿病に伴う認知症の病態解析を進めている。また、細胞株(マウスミクログリアMG6、マウス線維芽細胞3T3-L1)やマウス初代細胞(腹腔Mφや脂肪組織)を用い、生活習慣病に伴う認知症の進展機序とTREM2の病態生理学的意義の解明を目指す。
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