研究課題/領域番号 |
19K11765
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 綾香 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (80508333)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自己免疫疾患 / 脂質代謝 / イムノメタボリズム / 免疫代謝 |
研究実績の概要 |
本研究では、全身の脂質代謝とは独立して制御される免疫細胞の脂質代謝制御と代表的な自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)の発症・進展における意義を解明することを目的とする。 現在までSLEを根治する治療法は確立されておらず、非特異的な免疫抑制療法が主流である。最近、B細胞増殖因子に対する中和抗体療法が開始されたが、初期治療としては用いられていないため、発症初期からの特異的な治療法は確立していない。また、GWASやeQTL解析から脂質代謝と自己免疫疾患の関連性も示唆されているが、直接的な因果関係を示す報告はない。申請者はこれまでに、抗原提示細胞内の脂質蓄積が炎症性変化と自己免疫疾患の発症を促進すること、一方で、コレステロール逆輸送系を促進することによって抗原提示細胞ないのコレステロール量を減少させると、自己免疫疾患の病態が改善されることを見出した。本研究では、申請者自身独自の知見に基づき、免疫細胞自律的に脂質蓄積が起こるメカニズムと、遺伝的に全身の脂質代謝異常を有する際のSLEの発症や進展に対する影響を解明することを目的とする。本研究により、SLE発症初期の免疫細胞における脂質代謝異常のメカニズムと、脂質代謝と病態との因果関係を解明することは早期の新規治療法の開発を見据えた重要な研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該期間内に、自己免疫疾患モデルマウスのRNA-seq解析およびマイクロアレイ解析、およびリピドーム解析を実施し、自己免疫疾患に関連すると推測される脂質代謝関連遺伝子を複数、候補をして挙げた。これらの候補因子の欠損マウスを入手し、骨髄移植により免疫細胞における意義を解明するための準備を進めている。 また、脂質代謝改善に着目した介入方法として、オメガ3不飽和脂肪酸であるEPAを投与し、自己免疫疾患病態が改善することを見出した。そのメカニズムとして、EPAは抗原提示細胞によるサイトカイン産生の抑制と、B細胞の形質細胞への分化の抑制をもたらすことを明らかにした(論文投稿準備中)。さらに、免疫細胞内のコレステロール量の減少による介入を行い、自己免疫疾患病態に対する影響を検討中である。 以上は全て研究計画に示した通りであり、計画全体として概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度以降に実施している研究計画は以下の通りである。 ①自己免疫疾患マウスから単離した免疫担当細胞におけるリピドーム解析(継続):これまでに、自己免疫疾患モデルマウスから抗原提示細胞を単離し、リピドーム解析を行った。本年度以降も引き続きデータ解析を行い、トランスクリプトーム解析と組み合わせて脂質代謝異常の分子機構を解明する。 ②脂質代謝改善に着目した介入方法の評価:免疫細胞内コレステロール量の減少による自己免疫疾患病態に対する影響を検討する。また、リン脂質代謝を改善する方法として、LXRアゴニストを投与して同様に検討を行う。 ③遺伝的脂質代謝異常の意義の解明:リピドーム解析、トランスクリプトーム解析より挙げた候補因子について、欠損マウスを用いて病態への影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬の一部は既に手元にあるものを使用できる状況であったため、当初の予定よりも助成金を使用する機会が少なかったこと、マウスを他大学より移送して繁殖する予定であったが、COVID-19の影響によりマウス移送ができずに計画が遅れていることによって次年度使用額が生じている。
マウスの移送は手配が進んでおり、次年度は組換えマウスの繁殖とマウスを用いた病態の解析が可能になる予定であり、それに伴うオミクス解析も予定しているため、当該助成金は使い切る予定である。
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