研究実績の概要 |
インフルエンザウイルス感染は上気道で起きるが、インフルエンザウイルス粒子が感染した細胞から出芽する際に粘膜面・口腔内常在細菌のもつプロテアーゼの作用により活性化を受けることが言われている。本研究ではこうした常在細菌の増殖を制御すること、とくに食品およびその機能成分について着目して最終的にインフルエンザウイルス予防の道筋をたてることを当初計画した。 2020年度はコロナウイルス感染症の広がりにより研究活動に支障がでたため、当初の予定どおりには研究を進めることができなかったものの、2021年度は論文発表を行うことができた。インフルエンザの予防のためにはインフルエンザウイルスの増殖を何らかの方法で抑制する必要がある。最も効果的なのはウイルスの複製の早い段階を抑制することであるとの結果を得た。そこでインフルエンザウイルス増殖に必須であるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)に着目した。RdRpは3つのサブユニットタンパク質PA,PB1,P B2タンパク質の複合体からなっており、複合体を形成するのを抑制すると思われる化合物PA-49をこれまでに見出しており、RdRpの複合体の形成を抑制することで結果としてウイルス遺伝子本体の転写複製が阻害され、新たなウイルス粒子形成に必要なウイルス粒子構成タンパク質(M1,NP,HA,PA等)の合成が抑制されることになる。したがってRdRpの機能を抑制する化合物についての研究を中心に行いその成果を論文にまとめ受理された。インフルエンザ予防には、本研究で当初想定していた常在細菌の増殖抑制だけでなく、ウイルスが感染しても発症しないよう、ウイルスの増殖を抑える発症予防の併用も必要になると考えている。そのため、インフルエンザウイルス粒子構成タンパク質を標的とした食品の機能性成分や化合物の探索も引き続き行っていく計画である。
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