研究実績の概要 |
肺高血圧症病態下では肺動脈圧が選択的に上昇しており、右心室に過大な力学的負荷がかかっている。この力学刺激の過負荷は、右心室における心筋細胞の肥大や線維芽細胞の筋線維芽細胞への形質転換を経た細胞外マトリクス過剰産生など、病的なリモデリングを引き起こす。病的リモデリングは右心室のポンプ機能を障害し、延いては患者の生命予後を脅かす。本年度は、特に心線維芽細胞の筋線維芽細胞への形質転換に着眼することとし、インドール系ファイトケミカルである3,3'-diindolylmethane (DIM) の心線維芽細胞の活性化に対し抑制効果を示すか否かにつき検討した。 心臓の線維化を引き起こす因子の一つにアンジオテンシンII (AII) がある。AII を 0~0.003 mM までの 5 つの濃度でヒト心臓線維芽細胞に 24 時間作用させ、筋線維芽細胞の分化マーカー分子 (COL1A, ACTA2, CTGF, POSTN) の発現の有無を指標に条件検討し、至適濃度を 100 nM と決定した。300 nM および 1000 nM DIM 存在下で同様に 24 時間 AII で刺激したところ、AII 刺激によって観察された筋線維芽細胞分化マーカー遺伝子の mRNA 発現増大が観察されなかった。このことから、DIM は線維芽細胞の筋線維芽細胞への形質変換を抑制する可能性が示された。この結果は、第96回日本薬理学会年会にて発表した。 この他、先行研究で抗腫瘍効果が明らかとされたインドール類縁体 J の肺高血圧症に対する効果に関して、モノクロタリン誘発肺高血圧症モデルラットを用いて検討した結果、インドール類縁体 J は、モノクロタリン肺高血圧ラットの肺動脈圧を降下させる作用は有さないものの、右心室および肺における炎症性サイトカインの発現を抑制しうるという結果が得られた。
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