研究課題
日本でも食生活やライフスタイルの欧米化に伴い、肥満人口は増加の一途をたどり今や推計2300万人に達している。このうちの約半数は病気を持たない“健康な肥満者”であるが、残りの半分にあたる1100万人は糖尿病や高脂血症、高血圧症、動脈硬化など心疾患のリスクが著しく増大した状態を合併しており、これらの人々が治療を必要とする「肥満症」であり、深刻な社会問題となっている。肥満症発症の背景には、過栄養や運動不足による肥満、すなわち脂肪組織における脂肪細胞数の増加と肥大化、さらにアディポカイン産生異常が原因である。従って、脂肪細胞の大きさ或いはその数を適切に制御できれば、肥満の解消につながり、さらには生活習慣病克服の鍵となると考えられる。我々は、IRBIT (IP3 receptor binding protein released with inositol1,4,5-trisphosphate)という分子の生理機能を解明する過程で、IRBIT KOマウスが、体重低下・脂肪組織の減少・個々の脂肪細胞の矮小化・血中TNFα濃度の低下を偶然発見した。TNFαは「悪玉」脂肪細胞から分泌されることから、こうした所見は、IRBITが脂肪細胞の大きさや数を適切に調節できる分子であることを強く示唆している。そこで本研究では、IRBITがいかに脂肪細胞の数や大きさを調節しうるのかを、分子レベルで解明することを目的とする。そして脂肪細胞の「大きさ・数」を適切に制御する方法論を提案したい。これは、IRBITを軸にした全く新しい方法論になると考えている。
3: やや遅れている
令和元年度は、IRBITノックアウト(KO)マウスでは、体重低下・内臓脂肪組織量が減少しており、個々の脂肪細胞のサイズの矮小化していることを組織解析より確認している。令和二年度は、その分子メカニズムを検討するためにIn vitro 脂肪細胞分化誘導システムである3T3-L1細胞を用いてIRBITをノックダウンしたところ、①脂肪細胞の分化が顕著に抑制されていた。②さらにIRBIT ノックダウン3T3-L1細胞では、脂肪細胞のマスター遺伝子であるPPARγやC/EBPαの発現を検討したところmRNAおよびタンパク質レベルで発現が抑制されていた。③一方脂肪細胞初期に発現が誘導されるC/EBPβやC/EBPδの発現はmRNAやタンパク質レベルでは変化がなかった。④脂肪細胞分化に必須の過程であるMitotic clonal expansion(MCE)能をトリパンブルー排除法により計測したところ、IRBIT ノックダウン3T3-L1細胞では細胞増殖が抑制されていた。
① MCEと細胞周期の詳細を明らかにするために、DNA含量に基づく細胞周期の変化をフローサイトメトリーにより測定する。② 準備的な結果であるが、IRBITノックダウン3T3-L1細胞では、細胞形態に変化があることを見出している。そこで細胞骨格の一つであるアクチンフィラメントの状態検討するために蛍光ファロイジンで染色、共焦点レーザー顕微鏡にて観察を行い、アクチンフィラメントのパターンを検討したい。③ 細胞形態には、微小管に重合・脱重合が重要である。そこでまず、微小管の形態に変化があるのかを、α-チューブリンによる免疫染色を行い、比較検討する。また蛍光α-チューブリン発現プラスミドを遺伝子導入した3T3-L1細胞を用いて脂肪細胞分化前後での微小管の形態についてライムラプスで観察を行う。④ IRBITは、これまで機能タンパク質と結合してその活性を変化させることが報告されている。そこで、脂肪細胞分化前後でIRBITに結合するタンパク質の同定を行う。
昨今のコロナ禍で予定していた実験ができなかったため
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Sci Rep .
巻: 16 ページ: 5990
10.1038/s41598-021-85499-6