研究実績の概要 |
高齢者の多くが罹患する口腔乾燥症状(ドライマウス)は、唾液粘性の亢進を伴い、高齢者のQOLを低下させるだけでなく高齢者の死亡原因の第三位である誤嚥性肺炎の発症リスクを高める。このため、高齢者においてドライマウス症状が発生するメカニズム、特に老化により唾液粘度が亢進するメカニズムの解明を目的とし、老化により惹起される炎症状態と糖鎖シグナルの制御異常の関係を検討するため、本年度は、顎下腺における炎症状態について解析した。マウスの顎下腺における炎症性メディエーターレベルをmulti-plexを用いて調べたところ、若齢マウスに比べて老齢マウスではIL-1β, MCP-1, TNF-α等の炎症性サイトカインのレベルが顕著に上昇していた。マウス顎下腺におけるムチンの糖鎖はシアリルTを主としているが、老化に伴いGlcNAcやNeuAcがさらに付加した構造が増加し、老化により糖鎖プロファイルが変化することを私達は既に見出している。炎症状態と糖鎖プロファイルの変化には相関があるため、老化により惹起される炎症環境が糖鎖シグナルの制御異常を引き起こしている可能性があることが予想される。また、本研究から、ヒト顎下腺ムチンの糖鎖はcore-1型の糖鎖にシアル酸がα2-3結合で付加された構造を有することが示唆されており、マウス顎下腺ムチンと同様の構造であることから、ヒトにおいても同様の現象が生じている可能性があることが予想された。
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