体力と生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症)の関連はこれまで多くの研究で検討されており、特に全身持久力が高いと、生活習慣病の発症リスクは低いことが報告されている。本研究はこの知見をさらに発展させるために、全身持久力だけではなく、筋力など他の体力レベルの影響を検討した。具体的には、日本において有病率が高い脂質異常症の発症リスクと全身の筋力を反映する握力レベルとの関連を人間ドック健診の受診者を対象に検討した。その結果、男女ともに体格の影響を考慮した相対的握力の成績が良ければ、脂質異常症の発症リスクは低く、相対的握力の成績と脂質異常症の発症リスクには明確な負の量反応関係が認められた。さらに、下半身のパワーを示す垂直跳びの成績についても負の量反応関係が認められ、簡便な体力テストが脂質異常症の発症リスクに関するマーカーとなる可能性が示された。 一方、握力は加齢に伴って減少することが知られているが、これまで報告されている研究は年齢分布に基づく横断的な分析が多く、日本人を対象に経年的に握力の変化をモデリングする検討は限られている。そこで、加齢による握力の変化について6年間の縦断分析を実施し、男女ともに、加齢に伴う握力の低下は非線形であり、40歳以降から低下速度は大きいことを明らかにした。さらに、握力の低下は、女性と比較して男性において顕著であることも示された。 これらの報告をもとに、体力疫学研究に関する成果をレビュー論文としてまとめ、さらに、経年変化の分析の発展例として、全身持久力の決定要因の一つである身体活動レベルについて、女性のライフイベントに伴う変化パターンの抽出に当てはめ、その関連要因の特定を試みた。多くの女性は妊娠に伴い身体活動が低下することが明確になる一方で、出産後に身体活動が以前のレベルに戻る女性についてはかなり限定的であることが明らかになった。
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