研究課題/領域番号 |
19K11788
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
松井 弘樹 群馬大学, 大学院保健学研究科, 准教授 (20431710)
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研究分担者 |
須永 浩章 群馬大学, 大学院医学系研究科, 研究員 (10760077)
横山 知行 群馬大学, 大学院保健学研究科, 教授 (70312890)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脂肪酸 / 心肥大 / 心不全 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、全身Elovl6欠損マウス、心筋細胞特異的Elovl6欠損マウスを用いて、横行大動脈縮窄術(TAC)処置による圧負荷心不全モデルを作成を行った。その結果、コントロールマウスで見られる心重量/体重比の増加や心臓線維化、心機能の低下が、Elovl6欠損により著明に抑制されるという結果を得た。このメカニズムを明らかにするため、RNAシークエンスによる遺伝子発現の網羅的スクリーニングを行ったところ、遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子である“Parkin”の発現がElovl6欠損により著明に増加していることを見出した。実際に、Elovl6欠損マウスの心臓や、培養心筋細胞におけるElovl6のノックダウンにより、Parkinの発現が著明に増加することを確認した。 Parkinは損傷したミトコンドリアをマイトファジーにより分解することで、ミトコンドリアの恒常性維持に関わる重要なタンパクである。実際に、培養心筋細胞へのElovl6のノックダウンによりマイトファジーが亢進すること、さらにParkinのノックダウンによってキャンセルされることを見出した。さらに我々は、Parkinの発現増加を促す脂肪酸を調べるため、リピドミクス解析を行ったところ、Elovl6欠損により変動する特定の脂質がParkinの発現増加に関与すること、さらにこの脂質を培養心筋細胞に刺激したところ、Parkinの発現が大きく変動することを見出した。 また、ParkinのshRNAベクターをアデノ随伴ウイルス(AAV)に組み込み、Elovl6欠損マウスで見られた心肥大・心不全の改善効果がキャンセルされるか、現在、検討を進めている。さらに、Parkinの発現を制御する脂質が同定されたことから、心不全モデルマウスに外的に投与することで、病態への改善・悪化効果が見られるか、検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アデノ随伴ウイルスによるノックダウン実験や、Parkinの発現を制御する脂質の同定など、着実に研究計画は進んでおり、順調に成果も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は心筋細胞特異的Elovl6欠損マウス、線維芽細胞特異的Elovl6欠損マウスの両者の解析を比較することで、心臓における細胞特異的な脂肪酸組成がミトコンドリアの品質維持に与える影響について、基礎的な検討をさらに進めていく。 また、Parkinの発現やマイトファジーを制御する責任脂質を同定できたことから、モデル動物への脂質の外的投与による効果検証を進めるとともに、同定された脂質がどのような経路でParkinの発現制御に関与しているのか、転写・翻訳カスケードや脂肪酸の代謝経路など、詳細なメカニズムについて検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度にElovl6と脂肪酸組成が心肥大、心不全に関わるメカニズムの詳細解析を行ったが、COVID-19感染拡大の状況下でマウスの飼育環境を縮小せざるを得ず、十分なマウスの病態解析を実施することが出来なかった。さらに、培養細胞レベルの解析も、マウスの病態解析が滞ったぶん、十分な確認実験が出来なかったため、当初の予定額を次年度へ繰り越す予定である。 (使用計画) 令和3年度に繰り越した研究費に関しては、令和2年度で解析しきれなかったモデルマウスの病態に関する解析費用に充てる予定である。主な内訳としては、マウス飼育費、病態モデル動物の作成費、初代培養心筋細胞を回収するための新生児ラット購入、心臓組織・血液・培養細胞サンプルにおける脂肪酸分画の測定、PCR用試薬、抗体などである。
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