研究課題
高齢化に伴い、特発性肺線維症(IPF)、慢性閉塞性疾患(COPD)、呼吸器感染症、肺がんなどの呼吸器疾患が増加している。現在、肺線維症の治療は主に抗線維化薬や炎症を抑える免疫抑制剤が使用されているが、これらの治療法は疾患の進行を抑えることは可能であっても、線維化した肺を元に戻すことのできる根本的な治療法はない。線維化のメカニズムには、組織への炎症による細胞外マトリクスの異常な蓄積が関与している。我々のこれまでの研究を含めいくつかの研究から、ニワトリ卵殻膜の摂取が皮膚等の組織中の細胞外マトリクス成分を改善することが明らかになっている。また、ヒトへの卵殻膜サプリメントの長期摂取が呼吸機能を改善することを示している。2019年度は、卵殻膜による肺線維化への細胞外マトリクス改善効果および抗肺線維症効果を検討した。2020年度は、肺線維芽細胞を用いて卵殻膜による抗肺線維症のメカニズムの解明を行うとともに肺線維化モデルマウスの組織切片を解析し、卵殻膜摂取による細胞外マトリクスへの効果を調べた。卵殻膜を作用させた肺線維芽細胞の遺伝子発現解析の結果、細胞外マトリクスであるデコリンの発現を誘導したことから、卵殻膜はTGF-β系による線維化抑制に関与することが示唆された。さらに、肺線維化モデルマウスの肺組織切片解析から、卵殻膜摂取は気管支のIII型コラーゲンレベルと肺胞のデコリンレベルを増加させた。このように、ESMの経口摂取は、皮膚や肺組織の細胞外環境を改善することで、年齢に依存した若い皮膚に多い真皮乳頭層の減少や肺線維化を減弱すると考えられる。本研究成果は論文投稿中である。また、経口摂取により卵殻膜が消化吸収の過程を経て、肺や皮膚などの各組織に分布することを示し、論文発表した。今後は免疫応答との関係を検討する予定である。
3: やや遅れている
本研究では、肺線維症の緩和を目指し、入手が容易で伝統的に創傷治癒効果があるとされてきたニワトリ卵殻膜に注目して研究を進めている。2019年度は、卵殻膜の肺線維化改善効果を明らかにすることを目的とし、動物実験を実施した。肺線維症モデルマウスに卵殻膜を長期摂取させ、肺線維化の評価および遺伝子発現解析を行い、当初の予定通り、卵殻膜の摂取が細胞外マトリクスを改善し、肺線維症を減弱することを示すことができた。2020年度は卵殻膜の肺線維化抑制メカニズム解明のために、肺線維芽細胞を用いてTGF-β経路への影響および、肺組織切片の免疫染色によるデコリン・III型コラーゲンの局在解析から細胞外マトリクスへの効果を示すことができた。2020年度の論文投稿時の査読者の意見を参考に、追加実験を行ったため、計画はやや遅れている。現在はこれらの研究成果をまとめて論文投稿中である。
2021年度は、肺線維症に伴う免疫応答への卵殻膜の関与について調査する。炎症発生時にはマクロファージの凝集等、免疫細胞の動態が変化するという報告がある。卵殻膜摂取したマウスではマクロファージ等免疫細胞のダイナミクス変化について分析を行い、詳細に有効性を解析する予定である。
今年度は、明らかにすべきことの1番目にあげていた「卵殻膜の肺線維化効果」研究の論文投稿への追加実験を行ったので、2番目の課題の研究にかかる費用を今年度は使用することがなかったこと、また、新型コロナウイルスの影響により学会等がオンライン開催となり、今年度は旅費を使用しなかったため。次年度使用額は、2番目の研究課題である、イメージングによる細胞外マトリクスとマクロファージダイナミクスの線維症への関連についての研究に使用する。
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Journal of Fiber Science and Technology
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