本研究は、運動が慢性腎臓病による腎組織障害を改善する効果の機序を明らかにすることを目的とし、特に腎臓の脂肪酸代謝と線維化の関連に着目して運動の効果を検討した。昨年度は、長期的に高脂肪食を与え腎機能を低下させたラットを用いて、運動および食餌のエネルギー産生栄養素の摂取比率の違いが慢性腎臓病による骨格筋の遅筋化に及ぼす影響を検討した。その結果、タイプIIbのミオシン重鎖とタイプIIaのミオシン重鎖の比によって運動による遅筋化の変化を検討すると、慢性腎臓病モデルラットにおいて、高脂肪食を摂取した状態では、遅筋化が健常なラットよりもみられないことが明らかとなった。また、食事を普通脂肪食に変えて飼育し、腎機能の進展を抑制すると持久性運動によってミオシン重鎖の遅筋化が健常のマウスと同程度にみられることが明らかになった。運動による遅筋化は筋線維タイプの特徴からミトコンドリア量の増加を意味するため、骨格筋におけるエネルギー代謝の亢進が考えられる。高脂肪食による慢性腎臓病モデルラットでは、エネルギー代謝の低下が報告されていることから、運動による遅筋化を促進するためには、腎障害を促進する食餌についても考慮する必要があることが示唆された。一方、高脂肪食摂取による慢性腎臓病モデルでは、腎障害による筋萎縮の促進は見られなかった。筋萎縮に対する運動の効果を検討するためには、さらに長期的に観察する実験が必要であることが考えられた。
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