研究課題/領域番号 |
19K11798
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
緒形 雅則 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (20194425)
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研究分担者 |
石橋 仁 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (50311874)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 注意欠損多動症 / 糖質制限食 / ドーパミン神経系 |
研究実績の概要 |
妊娠14日目のWistarラットを購入後、生まれた生後4日目の雄性ラットを用いて幼若期ドーパミン神経系傷害動物を作製し、注意欠損多動症(ADHD)モデル動物とした。ドーパミン神経系の破壊には6-hydroxydopmaineを用い、塩酸デジプラミンの前処置をすることによりノルアドレナリン(NA)神経系の保護を行った。また対照動物として、溶媒(0.1%アスコルビン酸含有生理食塩水)処置動物も作製した。 今年度は、前年度の不足分の行動実験から始めた。まず高蛋白質糖質制限飼料摂取の新規環境下における自発運動(オープンフィールド試験)、慣れた環境下における自発運動量(24時間ホームケージ試験)、高さに対する不安関連行動(高架式十字迷路)に対する効果検証の例数を増やした。新規環境下におけるADHDモデル動物の多動に対しては、高蛋白質糖質制限飼料の摂取による改善効果はみられなかった。しかし、新規環境下における不安関連行動の減少に対しては有意な改善効果がみられた。慣れた環境下におけるADHDモデル動物の運動量の減少は、高蛋白質糖質制限飼料の摂取により有意に増加し、特に暗期の運動量の増加が顕著であった。また高さに対する不安関連行動の減少に対しても改善効果が観察された。 組織学的解析により、NA神経の起始核である青斑核でチロシン水酸化酵素抗体に対する免疫応答性の増強がADHDモデル動物で確認された。そこで今年度は、さらにNA神経系作用薬と高蛋白質糖質制限飼料との併用効果に対しても実験を始めた。薬剤としては、ADHD治療薬として用いられているアトモキセチンと、β受容体阻害剤であるプロプラノロールを使用した。現時点では、両薬剤とも例数が十分でないことから明確な結果を示すことはできないが、併用に伴う改善効果の増強が期待できる結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度も新型コロナウイルス感染症拡大に伴う教育方法の変更に伴い、研究活動が制限されてしまった。さらに高蛋白質糖質制限飼料の購入に関しても、海外からの輸入において、今まで以上に時間を要したのも一つの要因である。よって2019年度の遅れ分を十分に取り戻すには至っていない。しかし予定していた高蛋白質糖質制限飼料摂取効果の確認のための行動実験の例数不足分は、補うことが出来たといえる。さらに薬剤との併用実験も例数は少ないものの2つの薬剤で始められており、少しずつ遅れを回復している。また組織学的解析においても、チロシン水酸化酵素抗体を用いた解析ができ、前記のごとく青斑核での免疫応答性の亢進が確認できたことは、薬剤行動実験の結果を考察するうえで有効な成果と言える。しかし今後、薬剤行動実験、組織学的解析ともに、更なる実験を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究課題の最終年度であることより、本研究で得られた結果を明示する必要がある。よってこれまでの実験の不足分を補い、結果の信頼性を向上させる。①本研究での糖質制限飼料摂取によるADHDモデル動物の異常行動改善効果、②高脂肪糖質制限飼料と高蛋白質糖質制限飼料の有効性の比較、さらには③薬剤と併用した場合の糖質制限飼料の効果増強の有無、それら3つの行動実験結果の不足分を初めに追試し、確実なものにする。特に薬剤との併用実験では、アトモキセチン:1.2mg/kg/day、プロプラノロール:10mg/kgと、一般的に使用されている濃度での実験のみであることから、有用性を明確にするためにも、より低用量(1/2量など)での実験は必須である。 また行動実験でNA神経系作用薬に効果がみられたことより、組織学的解析では、当神経系の脳内起始核である青斑核に対する解析を進める。NA合成酵素であるチロシン水酸化酵素に対する抗体の免疫応答性を定量的に解析し、さらに興奮性指標であるc-Fosの抗体を用いての解析を進める。ADHDモデル動物の通常飼料群、糖質制限飼料群、さらには薬剤と糖質制限飼料の併用群で脳内の興奮箇所が異なるかをc-Fos発現にて検討し、異常行動改善効果発現の機序解明につなげる。さらに神経回路網を明確にするために、c-Fos発現変化が確認された部位に、順行性・逆行性神経トレーサーを注入し、本研究における重要神経回路網を解明する。 これら行動学的解析、組織学的解析が進んだ後には、ADHDモデル動物の異常行動発現並びに糖質制限飼料摂取効果発現に重要とされた脳内部位の神経細胞を単離し、その神経細胞の電気生理学的特性を解析する。 以上の実験により得られた成果は、世界各国から多くの研究者が集まる北米神経科学会で発表し、研究成果を広く社会に公開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由)今年度も新型コロナウイルス感染症拡大に伴う学部学生に対する実習形態の変更により、7月までの研究時間がかなり制限されてしまった。また、これまでの研究成果を北米神経科学会で発表する予定であったが、前記感染症拡大のため参加が出来なくなってしまった。代わりとして成果を発表した日本生理学会もオンライン発表となり、旅費は使用せず、大会参加費のみの使用となった。 (使用計画)繰り越した研究費は、本研究に必須である糖質制限食飼料購入と組織学的解析に用いる抗体および神経トレーサーの購入費用に充て、研究の進展に努める所存である。
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