研究課題/領域番号 |
19K11807
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
吉村 征浩 神戸学院大学, 栄養学部, 准教授 (60455566)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 炎症性大腸炎 / 酢酸 / 短鎖中性脂肪 |
研究実績の概要 |
炎症性腸疾患(IBD)の患者数は年々増加の一途を辿っており、患者のQOL改善や医療費増大の観点から、予防法の確立は喫緊の課題である。近年、腸内細菌が産生する酢酸がIBDに抑制的に働き、大腸炎モデル動物の症状が酢酸ナトリウム(Na)摂取により緩和することが明らかとなっている。しかし、酢酸NaはNaの同時摂取が日本人の高い塩分摂取と相まって問題となり、酢酸自体は高刺激・高毒性でおおくは飲めない等の問題がある。そこで本研究では、小腸内で酢酸を生成する食品添加物であるトリアセチンに注目し、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎に対するその予防効果を検討した。F344ラットを1週間馴化後、Water、WaterDSS、Ace-200 mM、Tri-66.7 mM、Tri-133 mMの5群に分け、2週間Water群には飼育水、Ace・Tri群には酢酸Na、トリアセチンをそれぞれ群名に示した濃度で飼育水に混合し摂取させた。その後、Water群以外の4群に3%DSS摂取により大腸炎を誘発した。解剖時の大腸長はWaterDSS群と比較してAce-200 mM群及びTri-133 mM群で有意に改善した。Bristol Stool Scaleによる糞便解析では、下痢はWaterDSS群と比較してAce-200 mM、Tri-66.7・133 mMで有意に改善した。血便はDSS投与6日目でTri-133 mM群において顕著に抑制された。血清LPS濃度はWaterDSS群と比較してTri-133 mMで顕著に低下した。以上の結果から、トリアセチン摂取によりラットDSS誘導性大腸炎の症状が緩和されることが明らかとなった。2020年度からは、以上の実験で得られた、各種臓器、血液の解剖学的な解析、生化学的な解析、分子生物学的な解析を順次進め、トリアセチンが大腸炎を緩和するメカニズムを探る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、DSSにより誘発する大腸炎の病態解析方法や適切なトリアセチンの投与量を決定する予備実験を行う予定であった。予備実験を行い、解剖時の大腸長や糞便形状の解析により大腸炎の程度を評価することができることが判明した。そこで、本来であれば2020年に予定していた本実験を前倒しで本年度実施することができ、先行研究で明らかになっている酢酸Na摂取が大腸炎改善効果を示すことの再現性が得られ、同じ条件でトリアセチンの摂取においても大腸炎を改善(予防)する効果があることが判明した。以上に事より、本年度は当初の計画以上に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
誘発前のトリアセチン摂取によりDSS誘発性大腸炎の症状を緩和(予防)することが出来ることが判明したため、今後はどのようなメカニズムでトリアセチンが大腸炎を緩和しているのかを明らかにする。具体的には、消化管の組織切片像の観察により、組織レベルで炎症が抑制されているかを確認し、各種マーカータンパク質に対する抗体を利用し免疫染色を行うことで、腸管免疫細胞の解析を行いたい。また、組織よりRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCRを行うことで、分子生物学的解析を行う。また、DSSによる大腸炎誘発と同時に、あるいは誘発後にトリアセチンを摂取させることで大腸炎が緩和するかを調べ、治療効果についても検証を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた回転式ミクロトームの購入を次年度に繰り越したため。次年度に購入を行いたい。
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