研究実績の概要 |
本研究では、TAce摂取がラットDSS誘発性大腸炎症状を緩和させることを見出し、その作用機序解明を目的としている。TAceの事前摂取は、DSSによる血中LPS濃度上昇を抑制すること、大腸組織の細胞接着因子(Zo-1, cadherin-1)の遺伝子発現を増加させることを明らかにしており、このことはTAce摂取が腸管バリア機能を上昇あるいは維持させることを示唆している。令和3年度は、TAceの摂取がどのような機序で細胞接着因子の発現を上昇させるのか明らかにするために、大腸組織における各種遺伝子発現解析を行った。その結果、IFNγ遺伝子などの炎症に関与する遺伝子群の多くがTAce摂取により抑制されていることが分かった。また、TAce摂取により大腸組織におけるAMPK活性化が抑制されていることが分かった。ヒトT84大腸上皮細胞へのIFNγ処理は、AMPK活性化を介した細胞接着因子の発現低下を惹起することが報告されている(Scharl M. et al. 2009)。また、本研究室ではTAce摂取により腸管内のLactobacillus属の細菌が増加することを明らかにしており、Lactobacillus属の細菌はTLR2を介して上皮バリア機能を向上させることが報告されている(KarczewskiJ. et al. 2010)。さらに、腸管で生成する酢酸が腸管バリア機能を向上させることも示されている(Fukuda S. et al. 2011)。以上のことから、DSS処理により炎症が起こり、腸管バリア機能の破綻が起こるが、TAceの事前摂取は、腸管で生じる酢酸の作用および腸内細菌叢の変化を介して腸管バリア機能を向上させ、DSSの腸管上皮細胞への取込を減少させ初期の炎症を予防することで、IFNγによるAMPK活性化を介したさらなる腸管バリア機能の低下を予防していることが考えられた。
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