研究課題/領域番号 |
19K11810
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
奥田 徹哉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (20443179)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ケトン食 / ガングリオシド / てんかん / GM2A / ST3GAL2 / 脂肪肝 / VLDLR / レプチン |
研究実績の概要 |
体内のガングリオシド代謝関連遺伝子の発現量へのケトン食摂取の影響について、ケトン食摂取モデルマウスにてガングリオシドの発現誘導が起こる肝臓を用いて網羅的遺伝子発現解析により調べたところ、有意に変化している遺伝子を数種同定した。中でも、明らかな遺伝子発現量の変化としてガングリオシドの生合成に関わるSt3gal2の増加、分解に関わるGm2aの低下が起きていた。Gm2aは大脳皮質及び海馬においても有意に低下していることがリアルタイムRT-PCR解析により明らかとなったが、その変化量が小さいためかガングリオシドの発現への影響はなかった。Gm2aの欠損マウスではガングリオシドが小脳に蓄積することが知られていたため、小脳のガングリオシドの発現量を調べたところ、シアル酸を多く有する複合型のガングリオシドの発現量に増加傾向が見られた。これらはSt3gal2により合成されるガングリオシドでもあることから、ケトン食の摂取がGm2aとSt3gal2の遺伝子転写制御を作用点として、小脳のガングリオシドの発現増加を誘導したと考えられる。 一方、組織におけるガングリオシドの発現増加が、血清中のガングリオシドの量的変化と相関していることを見出した。また血清中の糖タンパク質を合成する主要組織の肝臓では、ケトン食の摂取により糖タンパク質の糖鎖合成も影響を受けていることがわかった。このようなガングリオシドや糖タンパク質の血清中での量的変化・糖鎖構造変化は、ケトン食の中枢神経組織への作用を間接的に評価できるバイオマーカーとしての活用が期待される。そこで、これらの評価系の確立に向けて、必要な材料となる抗糖鎖抗体の開発を進めた。 他方、ケトン食摂取モデルマウスの肝臓では脂肪肝が発症しており、中性脂肪の放出に異常があることを突き止めた。この病態にはVLDL受容体とレプチンが関わることも明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の目標として設定した試料調製と各種解析技術の確立を完了し、次年度の目標としていたケトン食の作用点となる遺伝子(Gm2a, St3gal2)の同定に成功したため。すでに最終年度目標である診断に資するガングリオシドの特異抗体の開発に着手しており、加えてモデルマウスにて偶然見出された脂肪肝の発症メカニズムについても解析も完了し、以上の研究成果が合計7報の研究論文として今年度に公表に至ったエビデンスもあるため。
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今後の研究の推進方策 |
最終的には、臨床現場でも活用できる実用的なケトン食作用の評価法の確立を目指しており、これに必要な中枢神経組織でのケトン食の作用を評価できる指標分子を探索し、イムアッセイにより指標分子を定量的に評価する方法の確立に取り組む。現在までに、ケトン食の作用点となる遺伝子としてSt3gal2、Gm2aを同定しており、これらのプロダクトのガングリオシドが目的の指標となりうるのかについての検証を中心に研究を進める。そのためには中枢神経組織における細胞レベルでのガングリオシドの動態を明らかにする必要があり、まずは解析に必要なガングリオシドの特異抗体の獲得を試みる。並行して、抗体を用いたイムノアッセイによるガングリオシドの定量的な解析方法を確立する。抗体を獲得し解析方法を確立できたなら、これらを用いて過去の遺伝子欠損マウスの研究等によりSt3gal2やGm2aによってガングリオシドの発現量が制御されていることがわかっている領域や細胞におけるガングリオシドの発現へのLCKDの影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析の過程で、ケトン食の作用点として想定していたガングリオシドは、小脳や辺縁系など当初予定していた領域以外の神経細胞にも存在する分子種であった。そこで研究方式を見直し、特異抗体の獲得などに新たな予算を使用する必要が生じたため。繰越予算は、解析に必要なガングリオシドの抗体獲得と解析技術の確立に使用する。
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