ケトン食の摂取が脳内のスフィンゴ糖脂質の生合成へと及ぼす影響を明らかにすることを目的として、ケトン食を持続的に摂取させたマウスの各組織における関連遺伝子の発現量やプロダクトであるスフィンゴ糖脂質の含有量を解析した。まず、マウスでは肝臓と脳組織に同種のスフィンゴ糖脂質が含まれているため、扱いやすい肝臓を用いて解析したところ、ケトン食の持続的な摂取により酸性スフィンゴ糖脂質(ガングリオシド)の生合成に関わる遺伝子発現量の増加と、分解に関わる遺伝子の発現量の低下が見られた。これらの遺伝子の発現量の変化は、脳組織においてもガングリオシドの含有量へと影響を及ぼすと推測されたため、肝臓と脳組織に含まれるスフィンゴ糖脂質の含有量を調べたところ、ケトン食を持続的に摂取させたマウスでは、肝臓と小脳においてガングリオシドの特定の分子種の含有量が増加していることがわかった。以上の結果から、ケトン食には関連遺伝子の発現量の変化を作用点として、組織中のガングリオシドの含有量を増加させる作用があると考察している。また、臨床検査の試料として有用な血清に含まれる脂質が肝臓で産生される脂質に由来することに着目し、血清中のガングリオシドの含有量についても解析したところ、肝臓に含まれるものと同種のガングリオシドが検出され、特に糖鎖が長く親水性の性質が強いGM1やGD1aが、ケトン食の摂取後に有意に血清中に増加していることがわかった。これらの血清ガングリオシドをケトン食の肝臓や脳組織への作用を間接的に評価できるバイオマーカーとして活用するため、血清ガングリオシドの定量的なイムノアッセイ検出法を構築することを目的として、モノクローナル抗体の作製や精製抗体の調製方法の確立など、基盤技術の整備を進めた。
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